Vol.3 No.2 2010
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研究論文:サービス工学としてのサイバーアシスト(中島ほか)−106−Synthesiology Vol.3 No.2(2010)かしながらこれに代表される赤外線通信システムがいまだに実用的に使われた例が無いのは残念である。7.5 達成できなかった課題プロジェクトの初期に課題として掲げながら達成できなかったものに「デジタル情報版の割符方式」がある。割符というのは物理的な1枚の板や紙を2分割し、それぞれを別個に保存するもので、両者が合わないと鍵とならない。個人情報の保護のために、これのデジタル版を開発することを目指した:【例】割り符方式による情報格納サーバーに個人情報を集積するのは、悪用や漏洩などプライバシーの問題がある。ユーザー端末とサーバーに情報をうまく分離し、両者が揃わないと意味を持たないような表現、暗号技術の開発が必要である。これは非常に困難な技術であることは当初から認識していた。暗号化した情報では、複合化した瞬間に通常のデジタル情報となり、コピーが可能である。たとえば病院に個人カルテを暗号化して持ち込んでも医者が端末で見た瞬間にコピー可能な情報になってしまう。患者がいるときにしか見えない方式が欲しいと考えているが、これはデジタル世界だけでは実現不可能という見通しもあった。実世界の情報をうまく組み合わせる(例えば「位置に基づく通信」と組み合わせる)ことによる実現が唯一の可能性と考え、その方式を模索したが、今のところ失敗に終わっている。7.6 アドバイザリボードから最後にサイバーアシスト研究センターアドバイザリボードの最終レポート(2004年)のエグゼクティブサマリー(元は英語)の日本語訳を掲載しておきたい。これは我々が考えるCARCの評価とも一致している。サイバーアシスト研究センター(CARC)は以下の理由でユニークな組織であると考える:• 世界的に重要な分野で有力な新しいビジョンを追求している• 研究成果を実世界の環境におけるプロトタイプとして精力的に実装している• 国際的な位置づけの研究室としての勢いを得つつあるCARCの分野は「環境知能」である。これは、情報技術をデバイス、建築物、衣服あるいは他の人工物にまんべんなく埋め込み、それらの能力と有用性を飛躍的に拡大することを強調するパーベイシブコンピューティングのアプローチである。この分野においてCARCは生活のあらゆる局面で人間を支援する情報技術に焦点を当てている。CARCのビジョンの独自性は、人間と物理的文脈を最大限に利用することによって、比較的単純な情報インタラクションで最高の援助が得られるとする点にある。CARCの、研究成果の初期型プロトタイプを実際に適用するという方式は一般社会からの即時フィードバックを可能にし、同時に社会に対し新しい技術の利便性を印象づける効果を持っている。それに呼応するかたちで外部資金は年々著しく増加しており、CARCのプロトタイプの成功に見合うものとなっている。CARCのビジョンと研究手法は海外の研究コミュニティにおいて名声を高めてきた。CARCは日本における情報技術革新の先端的研究室の一つと見なされている。CARCは環境知能、セマンティックウェブ、マルチエージェント技術という世界的な情報技術の三つの主要な流れを、世界に先駆けて統合するという意味で流れに先行している。この競争的優位性を活かすために、CARCは研究センターとしてこの統合ビジョンを精力的に追求し続ける必要がある。8 謝辞ここに述べた研究はCARCの研究員の手によるものであるが、謝辞にその名を列記することはしない。引用文献から推測いただきたい。また、CARCではさまざまな非研究員の方に客員として参加していただいた。工業デザイナーの山中俊治氏のデザインなしにはCoBITやAimuletの成功はなかった。また西澤特許事務所の小澁高弘氏には毎週のミーティングの段階からお付き合いいただき、特許出願や審査請求後の対応を一手に引き受けていただいた。(株)サイバー創研は利益度外視でコンソーシアムの運営を引き受けていただいた。他にも研究コーディネイト等で多くの方の協力の上にサイバーアシストプロジェクトの成立があったことを記しておきたい。参考資料研究センターの歴史と運営1)CARC設立までの経緯通産省工業技術院産業科学技術研究開発制度による先導研究「知的社会基盤工学技術」(安西祐一郎委員長)[28]ではITによる新しい社会インフラ設計の提案を行った。ここで提案されていた知的社会基盤工学は、当時の通産省の領域を超え、郵政省や建設省等にまたがる省際性や、その規模の大きさから残念ながら国家プロジェクトとしては成立しなかったが、サイバーアシスト研究は上記構想のうちの主としてソフトウエア部分を切り出したものである。「サイバーアシスト」の名称は上記先導研究の後継として組織された、安西祐一郎氏を委員長とする通産省のユーザビリティ委員会(1999)[29]にて創造されたものである。当時「ユビキタス・コンピューティング」という名称はまだ市民権を得ていないという理由で使用されなかった。通産省工業技術院が独立行政法人産業技術総合研究所とし

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