Vol.3 No.2 2010
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研究論文:サービス工学としてのサイバーアシスト(中島ほか)−105−Synthesiology Vol.3 No.2(2010)なかった。一つには省庁横断型であり、通産省あるいは経済産業省が担うには大きすぎたということがある。この縮小版であるサイバーアシストも同様に国家プロジェクト志向のものであり、CARCの活動を中心にして全日本に広がることを期待していた。その点では失敗であったといえよう。以下でその理由を分析したい。7.2 サービス工学として産総研の役割の一つに、研究開発の「死の谷」を渡るというものがある。技術開発から製品化の間のギャップを埋める役割である。産総研には研究部門と研究センターがあるが、この製品化への橋渡しは研究センターが担うのが適切であると筆者らは考えている。CARCはこの実践に努めた。情報技術において、この橋渡しには実サービスの提供を例示することが最も有効である。そのためCARCの活動はサービス工学の実践であると位置付けることができるし、同時に方法論の研究という意味ではサービス工学の研究対象ともなり得ると考えている。本論文はサービス工学という観点からCARCの活動を振り返ったものである。CARCの提供したさまざまなサービス(学会におけるイベント空間支援サービス、愛・地球博における展示案内サービス等)は、それらが社会で実用化されたときに成功といえる。しかしながら、自分たちの手を離れて実用化されたサービスは残念ながら存在しない。この理由の一つは、3年少々というセンターの存在期間の短さにあると考えている。新しい技術が社会に出るには通常少なくとも10年の期間を要する。それに比べて3年は短すぎた。CARCがそのまま存続し、現在のサービス工学研究センターへと繋がっていたら、実用システムをいくつか世に送り出せたのではないかと思っている。7.3 名前のことプロジェクト、論文、研究テーマ、造ったシステム等の名前は非常に大事である。名前が良くて広がったテーマ(たとえば「カオス」)や、逆に名前が悪くて広がらなかったテーマなど枚挙に暇がない。その意味では「サイバーアシスト」という名前は失敗だったと思う。研究内容を知る同分野の研究者には多大な影響を与えることができたが、多くの企業を巻き込むことや国のプロジェクトとする等の社会的広がりに達することができなかった。総務省が使っている「ユビキタス」や経済産業省が使っている「サービス工学」のようにはなれなかった。第一の失敗は「サイバー」の意味。我々はWienerのCyberneticsの意味で使ったのであるが、映画Matrix等の「サイバー世界」が、ジャックインした先のデジタル構成された仮想世界の意味に用いられており、こちらが市民権を得てしまった。「サイバー・テロ」ではインターネットと同義に用いられている。そのため、我々の研究がユビキタス・コンピューティングとは無関係なネットワーク上のシステムの研究に思われてしまった節がある。我々は サイバー=デジタル+リアルであるという主張を繰り返した[27]が、それを繰り返さなければならなかったという時点で負けであろう。最近米国ではCyber-physical systemという分野(6.3節)が立ち上がりつつあるが、我々が目指したものは正にこれである。「実世界」を意味する単語を入れておくべきだったと反省している。第二の失敗は「ユビキタス」という用語を用いなかった点にある。センター設立時には「ユビキタス」という用語は存在していたものの市民権は得ていなかった。当時の首相が意味不明と言ったという話もあり、現在のように市民権を得るという予測が立たなかった。ただし、この「ユビキタス」という用語は総務省が使い始めたために、Mark Weiserの本来の意味ではなく、通信に偏った使われ方が主流になってしまった気がする。すなわち「いつでも・どこでも・誰でも」インターネットに繋がるという限定された使い方である。本当はその上でのサービスが大事なのだ。また、「ユビキタス社会」のように意味不明の使い方(インフラだけに言及しているのか?)も現れている。ただし「アシスト」という人間支援の概念を名称に含めたのは成功だった。技術あるいは分野名ではなく、目的を含んだ名称の例は少ないが重要であると考える。では、今ならどういう名称にしたであろうか?候補としては「ユビキタス・アシスト」、「サイバー・アシスト・リアル」あるいは「環境知能」あたりであろうか?7.4 デザインのことCARCでは外部スタッフ(研究アドバイザー)としてデザイナーの山中氏を起用する等、設立当初よりデザインを重視してきた。これは技術を社会に出す上でデザインが重要と考えたからである。デザインには形のデザイン(意匠)と機能のデザインの二つがあり、後者は研究者にもある程度可能であるが、前者はやはりプロにはかなわない。山中氏は元は自動車デザイナーであったが、本人の弁によれば、自動車は機能と形の間の自由度が大きすぎて面白くないということで独立された。機能が形を決める例としては氏のSuica読み取り機のデザイン等が有名である。山中氏には隔週の全体ミーティングの他、センターの合宿討論にも参加していただき、我々の議論している機能を形にするアイデアを出していただいた。機能を活かす形作りができたと考えている。Aimulet LAがグッドデザイン賞を受賞したことは成功例の一つに数えることができるが、し
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