Vol.3 No.2 2010
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研究論文:サービス工学としてのサイバーアシスト(中島ほか)−104−Synthesiology Vol.3 No.2(2010)という概念に1対1で対応する日本語が存在しないことを意味する。しかしながら、これらに共通する本質的な部分は「提供すること」である。何を何に提供するかによって意味が異なってくるのである。本稿の文脈で言えば情報システムを実際に使ってもらうことがサービスである。この部分(使用)を対象とした工学がサービス工学である。工学とは一般的な意味ではなんらかのシステムを構築するための学問体系である。自動車を構築するのが自動車工学、情報システムを構築するのが情報工学である。これら縦割りの工学分野に対し、それらを「使用」というフェーズで横断的に切ったものがサービス工学である。使用のフェーズを客観的に分析する(科学する)のではなく、そのフェーズを実際に構成し(つまり、サービスの提供を実施し)、その知見をシステムに戻すことが中心となる。なお、IBMはservice science、management and engineering (SSME)という研究分野を打ち出している。日本でこれは「サービス科学」と呼ばれることもある。しかし、実用に供するシステムをデザインしたり構築したりする学問体系は科学ではなく工学である[23]。その意味でサービスは科学の対象というよりは工学の対象と考えるべきであるから、この学問分野を「サービス工学」と呼びたい。英語では「工学」にぴったり対応する単語がないためこのように長くなってしまうのであろう。サービス提供を中心に据えた情報工学の実践という意味で、CARCの活動はまさにサービス工学の一分野の実践として位置付けることができる。製品化される前の研究成果を実際の使用に供するという行為は、産総研の研究センターという組織にして初めて可能になったように思う。この部分は従来の研究開発の枠組みを超えており、公的研究資金の調達しにくい部分である。そのため「死の谷」あるいは「悪夢の時代」[24]とも呼ばれ、研究者も企業も手をだせなかった領域である。産総研では1. 独立行政法人化により研究資金を用いたさまざまな人(研究者以外)の雇用が可能になったこと2. ベンチャー支援資金の供給が得られたこと注123. 愛・地球博の場合には産総研に運営資金が投入されたこと4. 研究センターという、基礎研究指向ではない組織の存在等によりサービス提供が可能であった。サービス工学の実践は、基礎研究を中心に行う研究組織とサービスの実現を目指す研究組織という二つの性格の異なる研究組織に分離して考えるのが重要だと考える。後者は従来の基礎研究の評価基準にはのらないためである。6.2 Ambient Intelligence実空間に配置したセンサーやアクチュエータを通じて人間の活動を支援する仕組みを研究する分野はubiquitous computing、pervasive computing等さまざまな呼び方をされている分野であるが、ヨーロッパではambient intelligence注13(環境知能)と呼ばれることが多い。サイバーアシストは人工知能の応用分野と見ることもでき、実際、サイバーアシスト研究センターの正副両センター長を初めとするセンターの研究員の大半は人工知能分野の出身者であった。米国では個人の熾烈な成果競争のため、論文数をかせぐ必要から社会応用を目指す研究開発は困難らしく、ambient intelligenceの研究も会議室等、大学や研究所の環境内に応用範囲が限定されているものが多くCARCのような社会に出た活動は少ない。そのためか、人工知能の社会応用をテーマとした2007年人工知能国際会議では招待講演[25]を依頼されることとなった。6.3 Cyber Physical System最近NSFが中心となってCPS(Cyber Physical System)[26]という研究分野が立ち上がっている。物理システムが情報システムに影響を与え、情報システムが物理システムを制御する、両者間のフィードバックループを扱うという意味ではサイバネティクスやサイバーアシストの考え方と同じである。7 評価最後に、サイバーアシスト計画全体の自己評価を記しておきたい。7.1 プロジェクトとしてサイバーアシスト計画は参考資料に示すように、当初通産省工業技術院産業科学技術研究開発制度による先導研究「知的社会基盤工学技術」の一翼を担うものとして計画されたものである。先導研究はその名のとおり、より本格的な国家プロジェクト(たとえば第五世代プロジェクトのようなもの)を目指しての先行的調査研究の仕組みであるが、残念ながら知的社会基盤プロジェクトが日の目を見ることは図11 Aimulet™ LA
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