Vol.3 No.1 2010
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研究論文:1550 ℃に至る高温度の計測の信頼性向上(新井ほか)−6−Synthesiology Vol.3 No.1(2010)で熱電対を校正できることがわかった[6][7]。4.1.4 パラジウム点実現装置パラジウムの融解点を実現するためにワイヤ法を選択することは前に述べたが、熱電対への定点物質の取り付け方には幾つかの手法がある。実験的な評価の結果、図7のようにコイル状のパラジウム線を取り付ける手法が安定した融解温度を実現するのに効果的であることがわかった[8]。図8は、コイル状のパラジウム線を取り付けたR熱電対をパラジウム点実現装置に挿入した後、徐々に炉の温度を上昇させたときのR熱電対の熱起電力の時間変化を示す。取り付けたパラジウム線の溶融に伴って150秒間で±0.05 ℃の範囲で融解温度の持続が観測され、この領域の熱起電力の平均値をもってパラジウム点での被校正熱電対の熱起電力の校正値とした。測定の結果、約0.05 ℃の再現性(標準偏差)で融解温度が実現できることが確認された。この装置を用いることにより、パラジウムの融解点において0.79 ℃の拡張不確かさ(約95 %の信頼の水準)で熱電対を校正できた。4.2 白金パラジウム熱電対の安定化技術4.2.1 熱電対のドリフトと不均質温度定点から熱電対に温度の標準値を移すときに最も大きな不確かさの要因となるのが熱電対自身の安定性である。図9は、高温の炉中に新品の熱電対を挿入し、挿入長を固定したまま測温接点を長い時間高温に曝露した場合、熱電対の特性が時間の経過に伴いどのように変化するのかを模式的に示している。Sはゼーベック係数と呼ばれる熱電対の特性であり、ここでは簡単のためにSは温度依存性をもたないと仮定して説明する。図中のEは温度勾配域で素線に発生した電場を示しており、Eを熱電対の素線に沿って積分したものが実際に観測される熱起電力となる。また、EとSには、E =S dT/dxの関係がある[9][10]。ここでxは熱電対の素線に沿った位置座標である。新品の熱電対を炉中に挿入すると、最初は図9(c)の実線に示されているように、ゼーベック係数Sは位置xによらず一定の値を示す(これを均質であると言う)。この熱電対の挿入長を固定したまま、測温接点を高温に曝露し続けると、図9(c)の点線で示したように、高温に曝露された部分でのゼーベック係数が、熱電対素線の組成変化や構造変化などに起因して次第に変化し、場所によって一様ではなくなる。こうしたゼーベック係数Sの変化に伴い、図9(d)に示すように電場Eも変化し、結果として熱起電力の変化が観測される。このように、熱電対の位置を固定したまま測温接点を高温に曝露するとドリフトと呼ばれる熱起電力の変化が観測される。この熱起電力の変化の傾向と大きさは熱電対の種類によって大きく異なる。測温接点と基準接点の温度をそれぞれ一定とした場合、図9(c)で示した新品の熱電対のように、ゼーベック係数Sが均質な熱電対では熱起電力は測温接点と基準接点の温度のみで決まるため、温度勾配が素線のどの位置にかかろうとも挿入深さによらずに熱起電力は同じ値を示す。一方、炉内で長い時間高温に曝露してドリフトが観測された熱電対では、図10のように熱電対の挿入長を変化させると熱起電力が変化する。この熱電対のように素線の位置によってゼーベック係数が異なる熱電対を一般的に「不アルミナ管R熱電対素線Pd線3 mm時間 / s熱起電力 / µV溶融後溶融前溶融中溶融中融解プラトー1 ℃Pd点での熱起電力値4008006001200140010001818018200182201824018260010020030040018630186201861018600185900.5 ℃1st2nd3rd4th5th6th時間 / min熱起電力 / µV図6 コバルト-炭素共晶点での融解・凝固曲線図7 パラジウムの融解点実現のためのワイヤ法図8 パラジウム点での融解曲線
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