Vol.3 No.1 2010
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−81−Synthesiology Vol.3 No.1(2010)座談会:シンセシオロジー創刊2周年を迎えてが強いものが必要だ」という、私はそれを“social wish”(社会的期待)と呼ぶのですが、そういったものが研究の外の世界にあって、それを研究者は必ずしも知らないのです。Social wishとscientific abilityが両方からきて、私は“邂逅”といっているのですが、それらがどうやって出会うか。19世紀、20世紀は、新しい発見が新しい機能を生み出すところに集中的にシンセシオロジーは向いていたけれども、今はsocial wishのほうが大きくなって、こういうものがなければ地球が壊れてしまうという危機感、言い換えればその危機を乗り越える力に対する期待が研究を主導する。赤松 炭素繊維の研究をしていた人は、炭素繊維の性質をいろいろな側面から見ようとしていて、強度という話がきたときに、それが使えることが理解できた。それがうまく伸びたのはsocial wishがあったからですね。要素技術はたくさんあるし、組み合わせの可能性もあるので、研究者主導で炭素繊維の性質のどこに注目して研究を進めるかというときに、エイヤでやっていくと、重箱の隅をつつく危険があるわけですね。 吉川 重箱の隅に入ってしまうということは、論文で書きやすいものを研究するということでしょう。要するに、研究のモチベーションというのは、過去にないものをやらなければ成果にならないのだから、抜けている部分を見つけるとどんどんそこに入ってしまう。それに対して、シンセシオロジーは、論文は決して書きやすくはないけれども、social wishがあるからそっちにいくということになります。産業界の製品化研究への拡大小野 『シンセシオロジー』を「構成学の研究」として見ている方々はけっこう多く、そのような論文の投稿もきているのですが、「多分野にまたがる研究」を研究している、あるいはその成果に基づいて新たな研究をしようという人たちが興味をもってくれています。産業界からも論文投稿が欲しいですね。赤松 私も産業界から論文投稿が欲しいと思って、「製品化研究論文(仮称)」を考えてみました。産業界で実際に製品化された例で、かつ構成学的に価値のある論文を投稿してもらい、製品化実例集みたいな感じのものを集めたらどうかと思っています。 吉川 企業が製品開発したということは、売る製品とは別に、目に見えない思考方法論という製品も出しているのだけれども、それは全部捨てているわけでしょう。頭の中に残っているから、経験者のスキルとしては残っているけれども、第三者には見えない。小野 その部分は雲散霧消しているのですが、それこそ企業のパワーの源泉みたいなところではないかと思うのです。企業が出版する「技報」は、まさに成功したものが何であるかを科学的なバックグラウンド付きで示すという、ある一断面を示しているのですが、もう少し奥のほうを書いてもらいたい。それを共有することは日本の企業の強さを倍加させるだろうと思うのですが。イノベーションスクールでの教材の試み小野 産総研イノベーションスクールで若手のポスドク研究者の研修をしていますが、10人ごとのクラスに分けて『シンセシオロジー』の輪講を行ったところ、「社会的な流れを踏まえて全体を把握し、自分がどの位置にあるのかを確認できた」という意見や、非常に新鮮な驚きがポスドクの人達にあったようで、大きなインパクトを与えたと思っております。赤松さんもモデレーター役を務められましたが、いかがでしたか。赤松 輪講では、こちらが解説しながらやっていくことで「構成学とは何か」という観点でポスドクの人たちが読み込んでくれるようになりました。モデレーターが6人いるのですが、「受講生たちが本当に真剣に考えて発表してくれて、やっと、私、構成学が何かわかりました」(笑)と言った人もいます。また、「第2種基礎研究において第1種基礎研究にときどき戻ることが大事だ」という論文が幾つかあるのですが、受講生はそういう観点は喜んでいました。自分のテーマに固執するという、自分が意識しない内に聖域を作っていたと思うのですが、輪講で目先のものにとらわれず、全体を見てシナリオを作って進めることの大切さについても学んだようです。小野 晃 氏
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