Vol.3 No.1 2010
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論説:“社会のための科学”と研究開発評価(大谷)−74−Synthesiology Vol.3 No.1(2010)5 プログラム評価としてのSynthesiology実はこうしたROAMEFの原理に基づいた研究開発のプログラム化の実例集として、本誌Synthesiologyが挙げられる。Synthesiologyに求められる論文の要件を、その 「研究論文の記載内容について」からまとめてみると、以下のようになる。(1)研究目標の設定→(2)研究目標と社会との関係(社会的価値)の説明→(3)研究目標を達成するためのシナリオの提示→(4)要素の選択と要素間の記述(要素技術群の選択とその選択の理由)→(5)要素間の関係と統合(構成)の考え方およびプロセスの記述→(6)結果とその自己評価→(7)将来の展開これらの項目は、これまでみてきたプログラムの構造と以下のように対応する。まず冒頭の二つは、プログラムを始める上でのRationaleな理由(2)と、それに基づくObjectivesの設定(1)に相応する。そして、(3)のシナリオとは、Objectives達成までの道筋の設計においてしばし使われる“ロジックモデル(ロジックチャート)”に他ならない。次の(4)、(5)は、プログラムのObjectivesを実現するために、具体的な課題(プロジェクト)を選定し、組み合わせて、プログラムとして有効な仕組みを作りあげる作業(Appraisal)に他ならない。(6)の“自己評価”は文字どおりEvaluationに相当し、最後の(7)は、展望として一種のFeedbackを記述していると言える。特に注目したいのは、Synthesiologyが、社会の中の研究の“目標”(Objectives)の提示と、そもそもそうした研究課題を設定した意義を社会的な文脈の上で説明する(WHYを説明するRationale)という点を強調し、冒頭にそれらの記述を求めているという記載順位である。というのは、これはまさにプログラム設計や評価の順番と対応する重要な点だからである。即ち、社会の中でのRationaleな理由が設定できて、有効な研究の目標(Objectives)が決められる、というプログラムの構造である。その元で初めて、社会のために有効なものとなりうるプロジェクト選定の基盤が整うのである。別の表現をすれば、最初に研究開発プロジェクトがあって、そこから社会的な価値が何かを探すのではなく、Rationaleに基づいた目標(Objectives)が設定できて初めて、有効な研究プロジェクトが選定できるのである。Synthesiologyの求める論文の執筆要項は、まさにこの論理展開と軌を一にしている。こうした視点からみると、Synthesiologyの持つ意義は次の3点に集約される。一つめはプログラム化を通じて、個々の研究開発プロジェクトを社会に接続する試みが実践され、その結果が“記述”されていることである。これはまさに、産総研の憲章にある「社会の中で、社会のために」という理念の具現化そのものである。二つめは、研究開発のプログラム化の具体例の提示である。筆者の知る限り、研究開発の実際の例についてROAMEFを軸として体系的に記述された文献は余り見られない。よってSynthesiologyは、研究開発評価の方法論を深める評価研究者のためだけではなく、 プログラムの実践的な深化に取り組むプラクティショナーにとっても大変貴重なサンプルを提供するものと考えられる。そして三つめは、研究開発の深化のためのフィードバックである。Synthesiologyがプログラム化の実践と分析を提示する場と捉えると、Synthesiologyへ研究成果をまとめることで、当該研究の内省評価が半自動的に行えることを意味している。そのことで、当初の研究戦略の見直しと修正が図られ、プログラムの更なる深化が促されることになろう。このようにSynthesiologyは、プログラムという視点から研究開発を記述することで、“社会のための科学”に向けて自らの研究実践から学び、見直しと修正を可能とする場を提供していると考えられるのである。6 おわりに以上見てきたように、研究開発評価というのはそれ単独では意味をなさないものであり、戦略策定と一体となって互いに作用しながら進化していくものであることが分かる。むろん、社会問題の解決や政策課題の実現は、科学技術のみでできるものではなく、行政や社会などによる幅広い取り組みも必要であることは確かである。しかし、今日的な意味での科学研究において重要なことは、単に研究の成果を“ごろり”と外に出すのではなく、目的に応じて使いやすいように加工した上で、研究開発の成果を受け取り手が積極的に使うようになり、それを通じて社会構造の変革が促されるような“仕掛け”をあらかじめ作っておくことが研究開発の範疇に含まれてきていることである(例えば、[13])。でないと、研究の論理のみが先行してしまって、得られた成果のその後の使い方については「後はどなたかにおまかせします」ということにもなりかねない。そうではなく、研究成果の受容者、あるいは顧客(カスタマー)のニーズを見越し、先取りした“仕掛け”を作っておく必要があるが、その“仕掛け”こそプログラムに他ならない。以上のように、今後、“社会のための科学”をより強力に推進する上において、研究そのものの質的・量的な向上とともに、戦略策定と一体となった評価が重要な役割を果たすと考えられる。我が国においては、先進主要国と比較してこうした評価人材の集積や養成に立ち後れがあることが指摘されており[14]、今後、戦略策定や評価において一層の充実が必要だと考えられる。なお本稿の更に詳しい内容について、http://staff.aist.
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