Vol.3 No.1 2010
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論説:“社会のための科学”と研究開発評価(大谷)−73−Synthesiology Vol.3 No.1(2010)とる”ことや“英会話資格の取得”)とから成る(前者がoutcome 、後者がoutputと“定義”されるが[3][9]、こうした用法は大きな混乱をもたらすことが多いのでここでは使用しない)。そして以下、これらをどのように(HOW)実現させるかについて、より具体的な活動事項(例えば英単語を1日100語覚える)たる実行課題が選択されると同時に、効果的なモニタリング項目を設定するというAppraisalが行われることになる(これは“事前評価”に相当する)。その上で、実際に実行しつつ、モニタリング項目のデータを収集するというMonitoring(“中間評価”にあたる)を経て、課題実施後にデータに基づいた運営上の教訓や知見の発掘などの分析を行うというEvaluation(ここでは日本語の訳語である“評価”よりは狭義の意味で、“追跡評価”にあたるもの)が行われ、改善点を見出して計画を見直していく、というFeedbackにつながっていく、という構造になっている。英国の評価制度では、この一連の流れは、それぞれの要素の頭文字をとってROAMEF(“ロアモフ”と発音する)と呼ばれており[3]、実はこうした構造を満たすものがプログラムの一つの必要条件となる。4.3 プログラム評価の意義ROAMEFに基づいたプログラム評価が優れている点は、ターゲットセッティングの有効性も含めた戦略策定の見直しを可能としている点である[3]。これはROAMEFを逆から辿ると分かりやすい。先に説明したように有効な見直し(Feedback)のためには、データに基づいた分析などのEvaluationが必要であり、Evaluationのためには、データの収集というMonitoringが必要である。そしてMonitoringのためには、“実行課題の採択”と“モニタリング項目の設定”の二つからなるAppraisalが必要だが、実行課題の選択のためには、そもそも何を目的としてそのプログラムを実施するのかが明確になっていないと設定のしようがないため、プログラムのObjectivesが必要となってくる。そして有効なObjectivesを設定するためには、そもそも何故そうしたObjectives(ターゲット)を設定するのかという根拠がRationaleである必要があった。このように、ROAMEFには、RationaleとObjectivesという大元の戦略策定まで問うことが構造的に埋め込まれており、ROAMEFに基づいたプログラム評価を行うのは、最終的には戦略策定の質的向上につなげるためのものであることが分かる。このことが重要なのは、特に“社会のための科学”の研究開発においては初期最適化というのは非常に難しいためである。むろん、最初から完璧な戦略策定ができていれば個別の課題の実施の上で全く問題ないのであるが、現実には戦略策定時においては調査が不十分であったり、戦略策定に不可欠な情報が欠如していたり、また当初想定していたのとは状況が変わってしまって、最初に設定した戦略策定では考慮に入っていなかった要素が出てくるなどするからである。特に研究開発は、実際にやってみないと分からないという不確定な要素が強いため、将来予測は大変難しくなる。よって、実際に実行しつつ、周囲の状況や実行具合をみながら、軌道修正していくことが不可欠となる。そしてその軌道修正には、プログラムレベルでのターゲット(ROAMEFにおいてはObjectives)の設定の有効性まで含めることが非常に重要になってくる。Rationaleな階層にまで遡って検討することにより、ターゲットそのものについての代替案を検討することが可能になるからである。本例で言えば、“英会話ができるようになる”ことの実現のために、TOEICをはじめ英語に関する勉強をしたけれど、結果的になかなか上達しなかった場合を考えてみよう。そうした場合でも、“アメリカ人の恋人を作りたい”ということ自体を諦める必要は全然ないことに気づく。例えば、アメリカ人の中でも日本語を話せるアメリカ人を選べば本来の目的は達成される、という代替案が検討できるのである。こうした点がプログラム評価の非常に強力な点であり、何故Rationaleという要素まで含めて考えなければいけないかの理由はここに存在していたわけである。また、そこまで問わないと、いつまでたっても非効率的な下位(プロジェクトレベル)の活動でもたもたしていて実効性が上がらず、結果的に無駄な投資ばかりして、かつ上位の政策実現に結びつかないというような事態が起きうる可能性がある。プロジェクト評価だけでなく、プログラム評価も同時に実施する重要性は、特に産総研のような、“社会のための科学”を標榜する公的研究機関においては強調しすぎることはないであろう。我が国の公的研究開発では、「どうしてこういうプロジェクトが施策として出てくるのか」というような研究課題が選ばれることがあるとも言われる[10]。よって、もし行政から与えられたターゲットが妥当でなかったり、戦略策定が適切でない場合、プログラム評価を実施することによって、そこで得られた明確な証拠とともにそうした点を政策担当者などに指摘し、上位の政策側が変わる契機を作っていくことが非常に大切になってくる。そうでないといつまでたっても、社会問題の解決という社会からの期待に対して、個々の研究活動が非効率的にしか結びつかないことになりかねない。そうした意味で、社会から公的役割を付与された研究開発型独法は、独法化によって獲得した自由度を最大限に活用し、そうした点についても示していくことが、研究自体の遂行とともにもう一つの重要な役割であると考えられる。
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