Vol.3 No.1 2010
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論説:“社会のための科学”と研究開発評価(大谷)−72−Synthesiology Vol.3 No.1(2010)点とったその結果、それで何?」という問いに答えられていないことに気づく。そこで、上位階層としてここでは例えば、「英会話ができるようになりたい」という項目を設定するものとすると、この目的のために、TOEICで高得点をとるのは確かに一つの方法であり、両者は意味ある関係として接合される(図5)。ただ、これは「英会話ができるようになりたい」という目的に対しての一つの方法であって、この目的の実現のためには、例えば“英会話資格の取得”など、ほかにも候補となりえそうな活動が考えられる。このようにして考えるとこれらは、“英会話の上達”という一つの大きな目的(意図する結果)の元、それを具現化させる指標となる、複数のより具体的な活動からなる構造になっており、言ってみればこれらは、“ターゲットセッティング”であると言える。そしてこれらのターゲットの実現のために、より下位の実行課題(英単語の暗記など)が位置づけられ、展開されている、と捉えることができる。しかしこうしたターゲットを設定するためには、その根拠となる要素、即ち、“何故”そうしたターゲットを設定したのかという理由がないと、有効なターゲットセッティングができない。本例で、何故「英会話ができるようになりたい」のかの理由として、「アメリカ人の恋人を作りたい」という理由があるとしよう。それは、ここで設定した人物の人生設計から与えられるものとし、“アメリカ人の恋人を作る”ためには、会話ができないとコミュニケーションができないので、“英会話の上達”というターゲットが設定された、とするのは論理的な展開として十分想定されるものである。この何故(WHY)に相当するものは、英国の評価制度で言われるところのRationaleに相当する[3](図5)。RationaleとはターゲットセッティングのWHYを説明するものであり、論理的根拠、正当性、根本的理由などといったものが挙げられる。“論理的根拠”とは文字どおりその根拠としてロジックに基づくものである。本例で言えば、英会話は今後ビジネスでも必須の武器であり、国外に限らず国内の就職のためにも英会話がますます重要になる、という今後の世の中の状況を分析した上での論理的考察から、“英会話ができるようになる”というターゲットを設定する、といった場合のものである。一方、残りの二つについては必ずしもロジカルな根拠を必要とするものではない。“正当性”においては、規則や法律を根拠とするもので、決まりの上で道理にかなってさえいればよい。本例では、例えば産総研の職員は英会話ができないと解雇される、という内規がもし存在するならば、産総研職員に留まっていたいのであるならば、英会話を上達させる、というターゲットが導かれ、これはRationaleなものになる。最後の“根本的理由”というのは、ロジックにも規則にもその根拠を持たないが、行動者である個人あるいは集団の切実な理由(例えば情緒的なもの)があって設定されるものである。本例で挙げた“アメリカ人の恋人を作る”はまさにこのケースである。このようにして捉えると、このRationaleと次の“ターゲット”の両者は、実は“戦略策定”にかかわることであり、これらが明確に設定されて初めて、その元でより有効で具体的な課題が選定できるという構造になっていることが分かる。英国の評価制度では、ここで言う“ターゲット”はObjectivesと呼ばれ、プログラムの内容(WHAT)に相当するものに他ならない[3]。それは今までみてきたように、実現させたい“意図した結果”であるところのもの (本例では“英会話ができるようになりたい”というような大きなターゲット)と、その指標となるようなもの(より具体的な小さなターゲット:本例で言えば“TOEICで800点以上 Rationale課題採択とモニターする項目決めプログラム見直し追跡評価中間評価事前評価戦略策定FeedbackEvaluationMonitoringAppraisal(Output)(Outcome)Objectives米国人の恋人が欲しい英会話資格の取得どれだけ出来たかデータでチェック出来なかったのは何故か?(分析)TOEICで800点以上取る英会話ができるようになりたい今後どう見直していけば良いか?毎日の進捗具合の記録と確認図5 プログラム化の例。図4の続き。

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