Vol.3 No.1 2010
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論説:“社会のための科学”と研究開発評価(大谷)−70−Synthesiology Vol.3 No.1(2010)にする必要が必然的に出てこよう。また成果の中でも、“主題的な成果”だけでなく、それが“意図した結果”[9]に最終的にどのようにつながっていくのか、そして得られた“主題的な成果”はその中でどういった位置づけになるのかという視点で捉えないと、試験の点数を得た“結果”、何を実現したいのかという、より上位の目的の実現にまで結びつかないことが往々にしてあり、注意が必要である。この点については後述する。3 評価対象の階層性−プログラム化の重要性−さて、二番目のポイントは、評価対象を階層的な体系で考えることである。これは一言で言うと、評価対象を一緒くたにして扱うのではなく、階層性をもったシステムとして捉え、それぞれの階層に応じてそれらの階層に固有の属性を把握することが、効果的で有用な内省評価につながる、ということである。ある研究課題の評価を展開しようとした時に考えられる階層構造とは、例えば図2に示すようなものである。まず最上位には総合戦略があり、これは科学技術基本計画や全体戦略に相当するものである。次にその元に“政策”が展開され、更にそうした政策の元に、“プログラム”(後述)があり、その元でようやく研究者がよく馴染んでいる個別の“プロジェクト”が位置づけられる、という階層構造である。ここでプロジェクトとは、“研究課題の集合体としての研究事業”を指すことにする。それに対して、プログラムとは、より上位の階層に属する政策と、個別事業としてのプロジェクトを結びつける“仕組み”のことで、これが間に入らないと、政策的な課題解決に資するような研究開発が効果的・効率的に展開しにくい、というのがこの図の意味するところである。このプログラムの重要性は、平澤氏[11]の説明を借りて、次のような思考実験を行うことで理解される。即ち、科学技術に関する個別のプロジェクトの成果をかき集めただけで、果たして上位の階層にある、社会問題の解決や政策課題を実現できるか、と考える。身近な例を思い浮かべれば分かるように、科学技術を使ってモノを開発したところで、それだけでは単にモノがあるだけである。政策課題を実現させるためには、政策と研究開発プロジェクトとの間をつなぐ仕掛けを両者の間に作り、「政策意図を具体化する仕組み」 [11]を導入することが不可欠である。それは、個別プロジェクトを構造化し、場合によっては技術以外の補助装置を導入するなどして、研究成果がシームレスに政策課題へと受け渡しができるようにするといったことである。こうした仕掛けこそがプログラムと呼ばれるものの基本的な考え方である。そうした仕掛けを作っておかないと、研究プロジェクトを実施していわゆる“成果”はいっぱい出てきたけれど、それが社会問題の解決に全然貢献しない、というような事態が発生してしまう可能性がある。さて、今与えられた研究開発課題に対して、プログラムという仕組みが埋め込まれているかどうか、それを判定する効果的なリトマス試験紙が存在する。それは次のような問いを発することである。即ち、「研究開発プロジェクトを実施したその結果、何?」という問いである(この問いかけは、文献[12]を参考にして定式化したものである)。研究開発が下位のプロジェクトレベルにとどまっている限り、そこから出てくるものは科学技術としてのモノや知見でしかない。それが、より上位に属する政策課題へと、どのような道筋で明確に結びつけられているかを明らかにしようというのが、この質問の意図である。この問いに明瞭に答えられず、あるいは抽象的で具体性に欠ける回答しか得られないということは、最終的に意図する結果(本稿では“社会問題の解決”)への具体的な道筋が見えてこないということであり、プログラム化が十分に行われていないことを示唆する。詳しいプログラムの内部構造については後述する。4 評価の局面の位置づけ4.1 事前・中間・追跡評価の一体化さて、評価の三つめのポイントは、評価の局面(フェーズ)の位置づけ方である。今、図3にあるように、ある研究開発のライフサイクルにあたって、戦略策定、実施、検証、見直しというステージを設定すると、内省評価のためには、事後評価や中間評価などをどのように位置づけたら良いかを以下、考える。まず、内省評価のためには、事後評価とは別に、“追跡評価”と呼ばれる新たな局面を導入する必要がある。一般に事後評価と呼ばれるものは研究開発の終了直後になされるので、厳密には直後評価と呼ぶべきで、この時にはまだ成果もきちんと定まっていなく、特に成果が出てくるまでに時間がかかるものは、直後評価で最終的な成果を見極めプロジェクトプログラム政策総合戦略図2 研究開発評価対象の階層性。
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