Vol.3 No.1 2010
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論説:“社会のための科学”と研究開発評価(大谷)−67−Synthesiology Vol.3 No.1(2010)の実施方法の在り方についての大綱的指針(以下、大綱的指針)”では事前評価の重要性についても触れられているが、多くの研究者は次のような疑問を口にするのではなかろうか。「そもそも事前評価なんかできるのか?それは意味があるのか?研究も開始せず、何も出てきていない段階で、一体全体評価なんかできるはずがないではないか?」と。これらの疑問に対して評価者と被評価者とが評価の意義と目的を共有し、共通の理解の地平に立って評価を実施していくことは、“社会のための科学”を実現させる上でもきわめて重要である。そのためには、評価そのものの考え方や思考の枠組みに立ち返って考える必要がある。そこで本稿は、こうした評価の論理構造について、親しみやすい例を使って分かりやすくまとめ、提示することを目的とする。以下、これまで研究開発評価論などで言われている基本となる概念を参考文献(入手しやすい日本語のもの)とともに示し、そうした概念や親しみやすい例を用いて筆者なりの論理展開を加えて説明していくことにする。なお、本稿では研究開発の中でも、大学の理学系の分野で行われるような純粋基礎研究ではなく、科学技術の知見を使ってどのように社会問題の解決や政策課題の実現に結びつけていくかを目的とするような研究の評価に対象を限定する。こういった分野の評価の上でポイントとなるのが次の三つである。第一に評価には大きく分けて4種類の視点があること、二番目に、評価対象の階層性に関わる問題、三番目に、評価の局面(フェーズ)の位置づけ方に関する点である。これらを考える際、研究開発評価においては注意深い用語の使い方が大変重要となるため、本稿で使用する用語の提示の仕方を以下のように定めることとする。まず、日常使われる用語であるが本稿においては独自の意味で使用されているものについては、斜体で示す(例えば、“プログラム”)。それに対して、特に独自の意味を有するわけではないが、それを強調したい場合や、ひとまとまりの用語や長い法令名等であって前後の区切りを明確にしたい場合には、クオーテーション(“”)で提示するものとする。一方、カギ括弧(「」)で囲われるものについては、文献からの直接引用、もしくは問いかけなどの“発言”に関するものに限るものとする。なお、本稿で述べられている見解は筆者の個人的なものであり、筆者の所属する活断層・地震研究センターとは一切関係のないことをお断りしておく。2 研究開発評価に必要な視点2.1 四つの評価の視点評価の視点について平澤氏[6]は、 達成度評価、価値評価、見直しと修正のための評価の三つを挙げているが、本稿ではこれに説明責任のための評価も加えた四つに整理した注。それぞれは必ずしも独立ではないが、本稿では第一近似的に以下のようにその内容と特徴を整理する(表1)。一般に評価と言われるとすぐに想起されるのが、達成度評価である。これは文字どおり、ある目標に対してどれだけ達成されたか、ということをみるもので、達成の可否について査定的になるのが特徴である。要するに達成具合を(多くの場合数値的に)管理し、査定することを、大きな目的とするものである。当然、達成していなければペケをつけられるので、これは“切る”ことと密接に関連する。達成度評価は、達成すべき内容が分かっていて、しかもその達成方法が既知であるような事象に対して、大変有効な方法である。典型的な例は、高校の定期試験である。高校の試験問題は、出題範囲も限定されていて、かつ出される問題の素材も教科書に書かれているなど、表1 研究開発評価の視点とその特徴。評価の視点は主に[6]による。 ・ 達成方法が未知の時のその方法の解明や, 変化する環境への適応が目的・ 自分の行動から「学習・改善」がキー・ 「分からない」対象に有効◎必要なし見直しと修正・ 出資者への説明責任が目的・ 納得されるかがキー・ 費用対便益分析が可能ならば有効×◎説明責任・ 価値を定めるのが目的・ 「比較」、「目的」がキー・ 「目的や基準が共有」されれば有効△◎価値・ 管理、査定(○×△付け)が目的・ 「切る」ことがキー・ 「ルーチン」な対象・作業に有効×◎達成度特徴有効性:方法が未知有効性:方法が既知評価の視点

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