Vol.3 No.1 2010
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研究論文:1550 ℃に至る高温度の計測の信頼性向上(新井ほか)−4−Synthesiology Vol.3 No.1(2010)決定した方針は、産業界に早期に高度な標準を供給するためにシナリオ(3)を採り、将来の高度化に向ってシナリオ(4)に進んでいくものである。このために産総研にとって必要な要素として次の①から⑥を選んだ。①高温度の国家計量標準である温度定点実現装置の製作とその不確かさの評価②仲介標準器としての白金パラジウム熱電対の安定化技術の開発③仲介標準器を温度定点で校正する技術と、その不確かさの評価④国際比較による国家計量標準の同等性の確認⑤定常的な校正サービスを確実に行うための品質システムの構築と運用⑥合理的なトレーサビリティ体系の設計と技術文書の作成これらの要素を統合・構成して、高温度のトレーサビリティ体系を構築することを試みた。上記の要素のうち①は、国家計量標準としての温度定点の設定に関するものである。銀の凝固点(961.78 ℃)、銅の凝固点(1084.62 ℃)、パラジウムの融解点(1553.5 ℃)の三つをシナリオ(3)の実現のための国家計量標準として開発した。さらに、将来シナリオ(4)に向かうための新たな国家計量標準としてコバルト-炭素共晶点(1324.0 ℃)とパラジウム-炭素共晶点(1491.9 ℃)を選択し、順次研究を開始した。各温度定点における熱電対の熱起電力を標準値として校正事業者に供給するために、パラジウムの融解点での仲介標準器は、R熱電対を選択した。一方1500 ℃以下の温度においては、白金パラジウム熱電対を仲介標準器に選択した。要素②は、この白金パラジウム熱電対の開発である。要素③は、実際に整備された温度定点実現装置を用いて、仲介標準器を校正するための技術と校正の不確かさの評価である。要素④は海外の国立標準研究機関との標準の比較に関するものであり、国家計量標準と校正技術の国際同等性を確認するために行った。国際比較を行うための仕組みが国際的に定められているが、この国際比較は、アジア太平洋地域内に組織されたアジア太平洋計量計画(Asia Pacific Metrology Programme、以下「APMP」という。)という国際組織において12機関が参加して行われたものである。要素⑤は、確立した国家計量標準による校正サービスを産総研が定常的かつ確実に行うための体制の整備とその運用についてである。要素⑥は、整備された計量標準が校正事業者に利用されて、産業界が用いる温度計を校正するまでの温度標準のトレーサビリティの体系についてである。校正事業者の技術レベルを第三者が認定するための基準となる技術文書の作成も重要な要素である。この文書に基づき、校正事業者の校正能力が確認される。要素①から⑤の内容はそれぞれ次章の4.1節から4.5節で述べ、要素⑥の内容は5章で述べる。4 国家計量標準の整備と仲介標準器の開発4.1 温度定点実現装置の製作と評価温度定点を実現する方法には、るつぼ中に鋳込んだ金属を融解・凝固させ、その融解点または凝固点の温度を実現する方法(るつぼ法)と、校正する熱電対の測温接点近くに定点物質の金属線を直接取り付けて融解点の温度を実現する方法(ワイヤ法)がある。るつぼ法は定点温度の再現性が良く、また長時間定点の温度を持続できるので温度定点を精密に実現するのに一般的に用いられている方法である。ワイヤ法は定点物質を融解するためのるつぼが不要なため実現が簡易であり、また0.1 g以下のわずかな量の定点物質で校正が可能である。ワイヤ法はるつぼ材料が定点物質を汚染することが懸念される場合や、貴金属のような高融解点の純金属を用いる定点校正に一般的に用いられている。産総研が熱電対の校正サービスを開始するにあたり、銀点、銅点、コバルト-炭素共晶点の実現には再現性の良い凝固点温度を持続できるるつぼ法を採用し、パラジウム点の実現にはパラジウムを定点物質とするワイヤ法を採用した。4.1.1 銀点実現装置銀点実現装置の概念断面図を図3に示す。定点装置は大きく分けて、ヒーターと制御系から成る「定点炉」、および定点物質を含む「定点セル」から構成される。定点炉には密封型のナトリウムヒートパイプで温度の均一化を図っガスポート石英管黒鉛ディスク温度計ウェル黒鉛ウール銀黒鉛るつぼヒートパイプヒーター定点セル定点炉33050140160575730良好な温度均一領域図3 銀点実現装置の模式図

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