Vol.3 No.1 2010
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シンセシオロジー 論説−66−Synthesiology Vol.3 No.1 pp.66-76(Mar. 2010)1 はじめに近年、ブダペスト宣言などに見られるように、科学研究において“社会のための科学(Science for society)”の重要性が指摘されている[1]。これは、人間活動に伴う地球環境の悪化への対処や、複雑化・脆弱化する社会の持続的成長のために、科学的知見を使って社会問題を解決していくことが社会から要望されていることを背景としている。我が国でも、独立行政法人(以下、独法)産業技術総合研究所(以下、産総研)ではその憲章の中心において「社会の中で、社会のために」を据え、本格研究という考え方を軸に、科学技術を用いて社会の持続的発展に貢献することを謳っている[2]。また、2005年から開始された第3期科学技術基本計画において、科学技術を用いたイノベーション創出が大きな柱になっているが、これはまさに科学によってもたらされた知見を社会のために活用しようという試みに他ならない。こうした“社会のための科学”を意識した研究開発が活発になる一方、研究開発から得られた成果を確認し、目的に照らして効果的な科学研究が遂行されているか、不断に見直しを行う必要性も言われている[3][4]。そのため、我が国においては近年、公的研究機関や大学などにおける研究開発評価が盛んに行われるようになってきた。しかし、こうした研究開発評価に関する各種制度や仕組みが確立される一方、それが“社会のための科学”の実現のために、有効に機能しているかどうかは必ずしも明確ではない。特に、評価を受ける現場の研究者側からさまざまな疑問が呈されていることが指摘されている[5]。例えば、「自分の専門分野を評価できる程深い知識や経験をもった研究者が他にいるように思えない。そんな中、妥当な評価ができるのか?いわんや、研究領域のことをよく分かってもいない評価機関が何で口出しできるのか。」といった反論はよく聞かれる。また、“国の研究開発全般に共通する評価大谷 竜“社会のための科学”が叫ばれて久しいが、そのような研究開発をどのように評価すればよいのであろうか。本稿では、研究開発評価のそもそもの考え方に立ち戻って概念整理することで、“社会のための科学”研究に有効な評価とは何かについて分かりやすく解説することを試みた。そのポイントは、評価はそれ単独では意味をなさず、研究開発を通じて実現させたいことへの道筋(戦略)と一体となって初めて機能すること、そして評価の役割は、戦略をより良く実行していくために実態をつまびらかにすること、などである。“社会のための科学”と研究開発評価− プログラム評価の構造とSynthesiologyへの示唆 −Ryu Ohtani“Science for society” and evaluation of research and technology development- The framework of program evaluation and implication for Synthesiology -This article intends to give a basic logical framework of “research & technology development (RTD) evaluation” for the realization of “science for society”. Although the RTD evaluation is to be designed for promoting the evolution of strategies that utilize the knowledge derived from science and technology for the well-being of society and for solving public issues, some confusion emerges due to misinterpretation of concepts and/or verbal abuse when putting evaluation into practice. Through conceptual mapping of previous studies with original daily-life examples, this article shows that the role of evaluation is to reflect the current state of affairs in order for strategies to be better reformulated cyclically and circularly.キーワード:社会のための科学、研究開発評価、プロジェクト、プログラム、ROAMEF、ターゲットセッティング、戦略策定Keywords:Science for society, evaluation of research and technology development, project, program, ROAMEF, target setting, strategy-making産業技術総合研究所 活断層・地震研究センター 〒305-8567 つくば市東1-1-1 中央第7Active Fault and Earthquake Research Center, AIST Tsukuba Central 7, 1-1-1 Higashi, Tsukuba 305-8567, Japan E-mail: Original manuscript received November 2, 2009, Revisions received January 4, 2010, Accepted January 15, 2010

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