Vol.3 No.1 2010
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研究論文:1550 ℃に至る高温度の計測の信頼性向上(新井ほか)−3−Synthesiology Vol.3 No.1(2010)• 仲介標準器としてR熱電対を用いる場合シナリオ(1):産総研が三つの温度定点(銀点、銅点、パラジウム点)で1本のR熱電対を校正し、それぞれの熱起電力の値(校正値)に基づいて960 ℃から1550 ℃の間で温度と熱起電力の関係を数式の形で表し、この数式を標準値として校正事業者に供給する。シナリオ(2):産総研が 三つの温度定点(銀点、銅点、パラジウム点)で1本またはそれぞれ専用のR熱電対を校正し、それらの熱起電力の値(校正値)を標準値として校正事業者に供給する。• 仲介標準器として白金パラジウム熱電対とR熱電対を併用する場合シナリオ(3):産総研が二つの温度定点(銀点、銅点)でそれぞれ専用の白金パラジウム熱電対を校正するとともに、一つの温度定点(パラジウム点)でR熱電対を校正して、それらの熱起電力(校正値)を標準値として校正事業者に供給する。• 仲介標準器として白金パラジウム熱電対を用いる場合シナリオ(4):産総研が四つの温度定点(銀点、銅点、コバルト-炭素共晶点用語3、パラジウム-炭素共晶点)でそれぞれ専用の白金パラジウム熱電対を校正して、それらの熱起電力(校正値)を標準値として校正事業者に供給する。これら四つのシナリオで重要なことは、仲介標準器に何を選択するか、そしてどの温度を校正温度として選択するかである。四つのシナリオは、技術的には(1)から(4)の順に難しくなる。シナリオ(1)では、産総研が校正事業者を経由せずに、直接温度計のユーザーに校正サービスした方が効率的である。海外では、開発途上国の標準機関がしばしば選択するシナリオであり、四つのシナリオの中では、校正の不確かさが最も大きくなる。シナリオ(2)は、仲介標準器を受け取る校正事業者にとっては、従来から習熟している機器を用いればよいので利用しやすいものである。しかし、校正事業者が行う1000 ℃でのR熱電対の校正サービスの不確かさを例えば0.3 ℃と想定した場合、自社の実用標準器にはその約1/3の大きさの0.1 ℃の不確かさが必要になる。このシナリオでそれを達成することは容易ではない。その理由は4章で詳述するが、仲介標準器として用いるR熱電対の安定性に限界があることによる。シナリオ(4)は、最新の研究成果である金属-炭素共晶点を国家計量標準に位置づけるもので、今後の研究の進展も取り入れることができる発展性に優れた方法である。しかし、このシナリオによる標準の供給は、受け手の校正事業者が新たな設備を導入し、新しい技術を習得しなければならないので負担が増加することになる。そこで産総研は、シナリオ(4)を将来目指すべき理想としながらも、温度計の製造事業者や校正事業者の利用しやすい温度定点を使うシナリオ(2)または(3)を現時点では選択し、将来シナリオ(4)へ向かう準備をすることとした。産総研は温度をはじめ種々の量の標準整備計画を2001年から順次公表・更新している。それはどのような国家計量標準がいつ頃整備されるかを明示しているので、産業界側は校正事業に必要な設備や要員をあらかじめ準備し、国家計量標準の供給時期に合わせて校正事業を開始することができる。産総研は標準整備計画で、銀点と銅点を用いた熱電対の校正サービスの開始時期を2002年と公表し、それまでの期間を利用して、仲介標準器について検討した。温度関連の学術団体や工業会の研究会がほぼ毎月開催され、産総研における標準開発の状況を報告し、各校正事業者や温度計の製造事業者における温度計校正技術の現状などを議論しつつ、銀点と銅点での仲介標準器の校正について産総研で取得した技術データを示した。このような情報交換と意見交換を繰り返して、産総研と産業界との間で次のような合意が形成された。R熱電対を仲介標準器とすることは安易な選択ではあるが、熱電対の不均質による不確かさが大きくなる(4.2.1項で詳述)。温度計の製造事業者からの要望は、IEC規格に定められたクラス1の熱電対の製品保証に足る十分小さな不確かさであった。国家計量標準の整備のタイミングに合わせて、不確かさの小さい仲介標準器を開発し普及させることができれば、大きな利点となることが認識された。この研究開発の詳細は4.2節で述べるが、0.1 ℃程度の小さな不確かさが得られる技術的見通しが得られたことから、銀点、銅点に対しては、白金パラジウム熱電対を仲介標準器とするシナリオ(3)を採ることとした。3.3 要素の選択シナリオ(1)シナリオ(2)シナリオ(3)シナリオ(4)小小大大R ②R ①R ① 960 ℃~1550 ℃R ①R ①R ①R ① R ③961.78 ℃Ag1324.0 ℃Co-C1084.62 ℃Cu1491.9 ℃Pd-C1553.5 ℃PdPt/Pd ①Pt/Pd ②Pt/Pd ①Pt/Pd ②Pt/Pd ③Pt/Pd ④校正の不確かさ校正事業者の負担技術的課題・図2 熱電対のトレーサビリティを実現するシナリオの比較RおよびPt/Pdは仲介標準器としてのR熱電対および白金パラジウム熱電対を表し、丸囲み数字は個体の識別を示す。

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