Vol.3 No.1 2010
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研究論文:製造現場における熟練技能の抽出に関する研究(松木)−54−Synthesiology Vol.3 No.1(2010)地方から都会に上京し、その中の優秀な人材が長い時間、必死に働いた成果である。高校卒業生を技能者、大学や大学院卒業生を技術者として分けて育成する製造業の時代は終焉を迎えていると思われる。同時に、町工場における匠の技が日本の製造業を支えるというマスコミのメッセージも修正が必要であろう。要求精度とコストの関係において、それらの果たす役割は決して小さいものではないが、匠の技のイメージを増幅しても、何ら将来を切り拓く原動力とは成り得ないと考える。最後に、熟練技能は誰のものであるか、という議論を行う。青色ダイオードを契機に企業研究者の発明について、その帰属に対する考え方が整理されてきているが、熟練技能者のもつ技能の帰属については、整理されているとは言い難い。必死に生み出した加工技術の技能が技術化されたとき、熟練技能者には何も残らないのであろうか。企業OBが海外の企業に招聘され現地教育を行うことによる技能流出が近年問題にされているが、技能の帰属についての議論を初めに行うべきであろう。様々な関係者が参加して議論を深める必要があると考える。6 おわりに熟練技能の抽出に関する研究の研究シナリオの概要と、研究結果について述べた。本研究で得られた成果は、(1)技能抽出のため、技能を代替する計算機システム構築による方法を提案したこと、(2)代替する計算機システムとして、理論式に基づくもの、実験式に基づくもの、データマイニングによるものがあることを示したこと、である。また、将来の製造業における熟練技能の在り方についても議論を行った。デジタルものづくり研究センターでは、「ものづくりを科学する」ということを目標として研究を行ってきた。熟練技能の抽出手法と可視化の研究開発は、熟練技能とものづくりの関係を、今まで以上に明確にできたのではないかと考えている。01234567891004000600080001000012000140001600018000200002000時間取鍋(とりべ)にかかる荷重の時間変化荷重参考文献P. Michael: 暗黙知の次元, 筑摩書房 (2003). (原著“The Tacit Dimension”, 1966).野中郁次郎ほか: 知識創造企業, 東洋経済新報社 (1996).K. A. Ericsson, R. T. Krampe and C. T. -Romer: The Role of Deliberate Practice in the Acquisition of Expert Performance, Psychological Review, 100 (3), 363-406 (1993).綿貫啓一: VR技術を用いたものづくり基盤技術・技能における暗黙知および身体知の獲得, 人工知能学会誌, 22 (4), 480-490 (2007). 浅井知ほか: 溶接技能のデジタル化と溶接士支援システムへの展開, 溶接学会論文集, 20 (1), 185-190 (2002).[1][2][3][4][5]執筆者略歴松木 則夫(まつき のりお)1980年早稲田大学理工学研究科数学専攻修士課程修了。日本ユニバック(現日本ユニシス)を経て、2000年に工業技術院機械技術研究所入所。博士(工学)。2001年産業技術総合研究所ものづくり先端技術研究センターシステム技術研究チーム長。2006年よりデジタルものづくり研究センター長。専門は形状モデリングであるが、センターでは、加工技術、技能継承技術、ものづくりを支援するIT技術の研究開発プロジェクトを率いる。査読者との議論 議論1 本論文の構成質問(上田 完次:産業技術総合研究所)本論文のタイトル・目的・方法・成果・主張は、NEDO事業研究「技能抽出の手法」と全く同じなのか、前者は後者の一部なのか、あるいは別の視点から考察し直したものなのかが不明です。回答(松木 則夫)本論文は、研究シナリオの紆余曲折という視点で、NEDO事業研究「技能抽出の手法」を述べたつもりです。ただ、その視点がどの時点のものであるかは曖昧となっていましたので書き直しました。議論2 現場に即したシナリオの設定変更質問(五十嵐 一男:産業技術総合研究所生産計測技術研究センター) 当初想定したシナリオを現場の要望を無視して実行することはできない故に、当初のシナリオ以外の方法も許容して、有効なツールに専念することに方向転換をした、と記述されていますが、変化要因の内容から推定すると、ここで記載されている事項は、プロジェクト提案時の検討対象として当初から調査・議論されていなければならない重要なもののように思えます。回答(松木 則夫)ご指摘のとおり、事前調査すべき内容であったと思います。ただ、企業における技能の実際の状況は複雑で、プロジェクトを開始しなければ判らなかったことが多数ありました。本研究では、当初の想定でも十分有効な現場で活用できるツールになったと思いますが、開始後の状況に応じてシナリオを変更したことが、さらに良い結果となったと考えています。議論3 構成要素の明確性質問(上田 完次)導出モデルに関して「導出モデルとして、理論式・・・、実験式、・・・データマイニング・・・がそれに続く」の内容は、本研究で得られた図7 鋳造における熟練技能とその可視化

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