Vol.3 No.1 2010
56/100

研究論文:製造現場における熟練技能の抽出に関する研究(松木)−53−Synthesiology Vol.3 No.1(2010)験式の推定も可能であろう。本研究成果を利用するとき、状況の変化に応じて導出モデルそのものを見直し、より信頼性の高い方法を探り続けることは有効であると考える。4.5 その他の導出法判断技能については、上記の三つの方法が典型的であると考える。しかし、継承すべき技能は判断技能以外にもある。理化学研究所が担当した金属プレスにおいては、対象とする部品種類に応じて、採用すべき加工法案が異なる。すなわち、部品の特徴から加工法案を選択する技能、選択された加工法案において留意すべき点とその検討方法などが最も重要な熟練技能である。加工法案設計の選択は、単純な判断の連鎖というには複雑過ぎる。本事業ではメタフローモデルの作成による技能継承に取り組んだが、上記の三つの方法論の範囲で議論することは困難である。これは、今後の研究課題である。4.6 熟練技能者の動作計測熟練技能者の動作に関する技能については、本研究で次のような取組みを行った。一つは鋳造における注湯作業の可視化である。図7のように、注湯を行うときに使用する取鍋(とりべ)の付け根にひずみセンサーを取り付け、溶融した金属の流量を測定する装置を開発した。これにより、「はじめは早く、途中はゆっくり、最後は押し込め!」と現場で云われている熟練技能の可視化を行った。可視化は可能になったが、作製する部品の個数や部品を連結する形状などの状況により微妙な調整が行われていることが分かっていて、その制御のメカニズムは単純ではない。動作の解析のためには、何をどのように制御しようとしているのかの熟練技能者に対する、聞き取り調査と、実際の溶融した金属の流量や温度の関係の解析を行うことで、はじめて動作の意味が判明する。このように、動作の技能の解析は、制御の意味を明らかにすることが本質的に必要であるが、本研究においても、類似の溶接動作の研究においても、まだその段階には至っていない。5 将来の製造業における技能熟練技能者の判断技能の抽出のための研究シナリオと成果について議論を行い、判断技能と動作の技能の可視化の例について述べた。このような研究が進めば、企業における熟練技能者は不要になるのであろうか。将来の熟練技能者の育成、熟練技能の在り方を議論したい。熟練技能の問題は、中小企業だけではなく大企業における問題でもある。例えば、自動車産業において塗装や溶接はほとんどロボットが行っている。動作の設定は、ティーチングと呼ばれる方法であり、その動作を決めるのは熟練技能者であった。しかし、実際の現場がロボット化することで熟練技能者の職場が無くなり、気がついてみると新しい材料、新しい塗料に対して適切な塗装条件や溶接条件を決められる人材が見当たらない、という問題に直面している。これは、企業がそれらの動作の制御の仕組みが十分理解できていない、ということに由来している。理論式による導出のところで議論したように、判断技能の継承における後継者が、その動作の物理的工学的な意味を十分理解することが重要である。将来の熟練技能者は、少なくとも関連する分野において十分な工学的な知識をもった上で、判断や動作を行う必要があると考える。自らの動作を客観的に観察するとともに、自分自身が熟練技能者として、新たな環境に適応して、新たな技能を創出する役目を担うべきであると思われる。すなわち、現場における高度なエンジニアであることが熟練技能者の将来像ではないだろうか。十分に解析された技能は技術化され、ロボット等による自動化を行い、自らは次の課題に取り組む。このようなエンジニアとしての役割こそが将来の技能者の姿であると筆者は考える。企業も、社会も、このような人材の地位、収入において優遇することがなければ、現在優位であるといわれている日本の製造業の未来が心配である。現在の熟練技能者のもつ技能は、「金の卵」といわれて欠陥事例検索図6 データマイニング操作画面例

元のページ 

10秒後に元のページに移動します

※このページを正しく表示するにはFlashPlayer9以上が必要です