Vol.3 No.1 2010
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研究論文:製造現場における熟練技能の抽出に関する研究(松木)−52−Synthesiology Vol.3 No.1(2010)形する。その変形の度合を推定することも重要である。このためには、事前に研究所や企業で実験を行い、その曲がりの程度とそれを支配する主なパラメーターを想定し、その実験式を作成する必要が生じる。熱処理の曲がり予測という熟練技能の代替物として実験式に基づく導出モデルを採用した(図5)。新しい状況に対応するために、後継者が実験式を導出モデルとする方法を発展させる必要がある。このためには、実験式の背景にある金属材料に関する物理的な知識の獲得と、どのような簡略化を実施しているのか、という工学的理解が必要である。これが、後継者が継承すべき技術化された技能であると考えている。4.4 データマイニングによる導出製造業において、様々なトラブルへの対応というのは重要な技能である。メッキでは、発生したメッキの不具合を整理し、その不具合の原因と思われる候補群と、過去に実施した是正処置との関係を取得、蓄積する仕組みを構築した。トラブルを類型化し、実際にトラブルが起こると、起きた不具合がどの類型に対応するかを判定し、不具合が発生した状況を付帯的なパラメーターとして、過去のデータを検索して対処する。これは、一種のデータマイニングである。すなわち、理論式も実験式も推定できないが、過去の膨大なデータから適切な情報を得る方法である。本研究では実施していないが、クラスタ分析、ニューラルネットワーク、遺伝的アルゴリズムなども有効になる可能性がある。鋳造では、過去の事例を検索するために、図6のようなインタフェースをもった検索手法を利用している。これは、センターで開発したイーグルサーチという手法で、検索キーを柔軟に変更できる特徴を持っている。導出モデルがデータマイニングによるということは、対象としている導出モデルが十分に解明できていないということを意味している。起きたトラブルから、常にその原因を理論的に追及し、対応関係が明らかにできるのであればデータマイニングではなく理論的な導出モデルを構築できる。しかし、実際のトラブルには、理論的な追及ができない、再現性がない、再現するためのコストが膨大でとても追及できない、ということが少なくない。このため、トラブル対応の技能については、過去の事例と解決方法の関係を蓄積し、それらを検索するデータマイニングによる方法は有効である。以上、3種類の導出モデルを示したが、これらを比較すると、理論式に基づく方法が最も有効であり信頼性も高いと考えられる。それは、導出方法を理論的に説明できるからである。実験式による方法は、前提となるパラメーターとその相互関係が明らかになっているという点で、理論式に基づく方法の次に信頼性があるように見える。データマイニングによる方法は、因果関係が不明であるため最も信頼性が低いと思われる。したがって、導出モデルを常に見直し、できるだけ理論式に基づく方法に向かうことが望ましいと考える。ただ、これらの方法の差は明確とはいえない面もある。理論式による導出と実験式による導出の差は、理論化が成されているか否かの違いである。データマイニングも、問題領域の次元が明らかになり、データが蓄積されれば実20100200400520mm 13060N5 TP実験変数・ 処理品形状 : 丸棒20φ*100、200、400、520 mm・ セット姿勢 : 縦置き、横置き・ 焼入油温 : 130 ℃(ホット)、60 ℃(コールド)・ 油攪拌速度 : 高速、低速・ N数 : 5・ TP材質、浸炭条件は一般的な条件を用いる(a)縦置きと横置きによる曲がり度のTP長さ依存性 油温ホット 低速攪拌(b)縦置きと横置きによる曲がり度のTP長さ依存性 油温ホット 高速攪拌TP長さ, mmTP長さ, mm曲がり値, mm曲がり値, mm赤:横置き青:縦置き赤:横置き青:縦置き01002003004005006001.00.03.02.05.04.07.08.06.001002003004005006001.00.03.02.05.04.07.08.06.0図5 熱処理における実験式の導出例
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