Vol.3 No.1 2010
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研究論文:製造現場における熟練技能の抽出に関する研究(松木)−51−Synthesiology Vol.3 No.1(2010)できた。材料も鉄を基準にして物性値を想定することでマグネシウムやアルミニウムの材料に適用可能であることが分かった。これらの企業の経験と金属塑性の知識、さらに作成すべき部品の図面情報と材料から、冷間鍛造で必要となる圧力値の導出モデルが作成できた。これを計算機システムとして実装したもののインタフェースを図4に示す。鍛造中の被加工物の温度上昇についても導出モデルを作ることができた。このように、加工圧力が拘束係数と変形抵抗の積で表現されるといった理論的なモデルと、経験に基づいた製品形状の簡略化モデルを融合することで、従来、熟練技能者の判断に頼っていた判断値を代替する計算機システムを構築することができた。さらに、この計算機システムには、実際に加工したときの圧力計測値を入れ、蓄積することができる。これにより、工場の環境あるいは加工機械の特性と思われる値を推定することもできる。この計算機システムは冷間鍛造シミュレーションの一種である。技能の継承において、この冷間鍛造シミュレーションは次のような役割を果たすことができる。まず、熟練技能者の代替物として利用することができる。仮にこのシミュレーションが完璧ならばそれで終りであるが、実際は材料も潤滑剤も時代とともに変化する。状況が変化すると以前と同じ処理では正しい結果が得られない。そこで後継者は、このシミュレーションの元になる導出モデルとアルゴリズムそのものを理解する必要が生じる。計算の手順と原理を理解することで、新しい状況に対応することが可能となる。競争の激しい製造業において、昔と同じ作業ができるだけでは不十分で、新たな課題に対応できる能力が求められている。この意味で原理と処理内容が明らかになったシミュレーションは、技能継承を支援する大変有効な手法の一つであると考える。4.3 実験式による導出鋳造では金属の凝固プロセスが重要な役割を果たす。鋳造技術とは、この金属凝固のプロセスを制御しつつ精度の良い形状を作成する方法といえる。このため、部品の詳細形状、製造条件や温度環境、鋳型の湿度や温度、溶融した金属の諸性質など、膨大なパラメーターを入力することで理論的な導出はある程度可能である。しかし、作業現場でそれらを測定し入力して理論式から求めるシミュレーションを導入することは大変困難である。また、鋳造では一回の注湯作業で何個の部品を作成できるか、ということが生産効率、結果としてコストに大きく影響する。品質だけを重視しては企業運営はできない。このような諸条件を考慮すると、シミュレーションという形態ではなく、ある程度の推測に基づく実験式作成のアルゴリズムを含んだデータの取得と蓄積の仕組みが有効と考えられた。同様に、熱処理においては処理中に材料が変接触応力分布図4 判断技能に対応するシステム例
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