Vol.3 No.1 2010
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シンセシオロジー 研究論文−47−Synthesiology Vol.3 No.1 pp.47-55(Mar. 2010)1 はじめに中小製造業の現場にある熟練技能者の技能を抽出し、後継者に円滑にその技能を継承することを目的として2006年から2008年まで実施されたNEDO事業「中小基盤技術継承支援事業」において研究開発された「技能抽出の手法」について、その研究シナリオの変遷に焦点を当てながら研究の成果を述べることが本稿の目的である。なお、本稿に述べる内容は、NEDO事業に参加したもの全員の成果であるため、事業のプロジェクトリーダーである筆者が代表してその概要を述べる。本研究では、熟練技能の製造技術の物理的、工学的な側面に着目し、認知科学的、経営的な側面を極力排除したものとなった。このような技能に対する立場は、当初の研究シナリオでは明確に意図されていたわけではない。この立場を明確に意識することの意義を、迂闊にも当初は重要視していなかった。しかし、研究を進めるにしたがって、技能研究の位置づけを明確にする必要が生じた。また、本事業は中小企業庁の補助事業でもあるため、中小企業支援が大前提である。つまり、事業のアウトプットは中小企業で有効な技能継承ツールである。研究の新規性というよりは、企業現場での人気が重要な評価指標である。近年の競争的資金による研究開発は、事業終了後の市場創出への寄与度を重視する、いわゆる出口指向が一段と強化されている。基礎的な分野の研究者には大きな制約と感じる人も少なくない。本稿では、「現場で使える技術を開発せよ」という要請が、研究開発のシナリオにどのような影響を与えたのかについても議論を行う。2 対象とする技能の概要2.1 技能と暗黙知本研究で対象とする製造に関する技能とは「理由を説明することができないが、設計から生産までの製造に関する有効な動作や判断ができる能力」と定義する。技能をスキルと呼ぶこともある。これに対立する概念として技術がある。技術とは、「動作や判断の根拠や仕組みを第三者に明確に説明でき、第三者がそれに基づいてその動作や判断を再現できるものである」と定義する。技術をテクノロジーと呼ぶこともある。熟練技能とは、長年の製造に関わる作松木 則夫中小製造業の現場にある熟練技能者の技能を抽出し、後継者に円滑にその技能を継承するため、鋳造、鍛造、メッキなどの加工技術について、熟練技能者のもつ判断の技能を抽出する方法を提案する。この方法に基づき、各加工法の個別の技能について、その代替となる実際の加工現場で利用可能な計算機システムを開発した成果を報告する。また、将来の製造業における熟練技能者の在り方についても議論する。製造現場における熟練技能の抽出に関する研究− 技能の可視化および代替に関する研究 −Norio MatsukiAcquisition of skills on the shop-floor- Visualization and substitution of skills in manufacturing -For the purpose of assisting skill transfer training in small and medium manufacturing industry, an acquisition method of judgment skills of experienced factory workers on shop-floors of metal processing such as forging, casting and plating is proposed. Several software applications based on the method have been developed and evaluated in the manufacturing factories. The future vision of skills and skilled workers in the manufacturing industry is also discussed.キーワード:技能、暗黙知、技能抽出、熟練技能者Keywords:Skill, tacit knowledge, skill acquisition, skilled worker産業技術総合研究所 デジタルものづくり研究センター 〒305-8564 つくば市並木1-2-1 つくば東Digital Manufacturing Research Center, AIST Tsukuba East, 1-2-1 Namiki, Tsukuba 305-8564, Japan E-mail: Original manuscript received September 17, 2009, Revisions received December 17, 2009, Accepted December 21, 2009

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