Vol.3 No.1 2010
5/100

研究論文:1550 ℃に至る高温度の計測の信頼性向上(新井ほか)−2−Synthesiology Vol.3 No.1(2010)る。もう一つの成果は、同じく貴金属熱電対を1100 ℃以下で温度定点用語2を使って校正する方法の共同研究であった。この背景には、1980年代に半導体プロセス産業で要求が高まりつつあった、1100 ℃付近までの温度範囲で国際電気標準会議(IEC)の規格で導入された最も高い精度のクラス1熱電対[1]に対する技術的要求を確実にクリアしようという産業界の要請があった。産業界においてこのような努力が払われた一方、当時その信頼性のよりどころとなる温度の国家計量標準は十分に整備されていなかった。このため、産業界で開発された校正方法と、それによって校正された温度計の信頼性を検証する手段がなかった。この問題を解決するために取り組んだのが、ここで述べる温度の国家計量標準の提供と標準体系の構築である。これは、温度の国家計量標準を整備し、それをユーザーの温度計にまで伝えていく仕組みを構築し、さらには温度計の製造事業者や校正事業者が表明する規格適合や校正値を認証する仕組みを構築することによって、世の中で広く使われている温度計の信頼性を確保していこうという活動である。3 シナリオの設定と要素技術の選択3.1 熱電対のトレーサビリティ1000 ℃から1550 ℃の間の温度範囲における温度の国家計量標準と、それを用いた熱電対のトレーサビリティ体系の基本的な枠組みを図1に示す。産総研は国家計量標準として温度定点群を保有する。純粋な銅の凝固点(1084.62 ℃)と純粋な銀の凝固点 (961.78 ℃)は、従来から日本を始め各国の標準研究機関で多用されている温度定点である。凝固点の温度値は国際的な協約のもとで合意して決めたものである。純粋なパラジウムの融解点(1553.5 ℃)も高温の温度定点として各国でしばしば用いられている。一方金属と炭素の共晶点は、最近日本から提案された新しい温度定点である。銅の凝固点とパラジウムの融解点の間にある約500 ℃の広い温度範囲に新たな温度定点が利用可能になることは、温度標準を供給する観点からは大きな意義がある。そこで産総研では可能な限り早期にこれらの金属-炭素共晶点を国家計量標準として利用可能なものとするべく研究を進めてきた。産総研が保有する国家計量標準を熱電対の校正を事業とする校正事業者に伝えるためには、産総研と校正事業者との間を行き来して温度の標準値を伝える何らかの「仲介標準器」が必要である。仲介標準器は精密な標準値を伝えるだけの高い性能を持っていなければならないし、移送に耐えて正確に標準値を保持し続けるだけの堅牢性がなければならない。また移送に当たっては軽いことや、入手に当たっては値段が過度に高くないことも現実には重要な項目である。これらの要件を考慮して、我々は2種類の熱電対を候補として検討した。一つは、ロジウム13 %を含む白金ロジウム合金と純粋な白金とを素線に用いた熱電対(R熱電対)であり、もう一つは純粋な白金と純粋なパラジウムを素線に用いた熱電対(白金パラジウム熱電対:Pt/Pd熱電対)である。どちらも高温が計測できる熱電対である。R熱電対は従来から広く用いられているものであるが、高温での安定性にやや難点がある。白金パラジウム熱電対は最近新たに開発された熱電対で、安定性はR熱電対よりも良いと期待されるが、まだ使用実績が乏しく、安定性などの特性が十分に把握されるまでに至っていないものである。校正事業者は産総研で校正された仲介標準器を受け取って、自社の実用標準器に温度の標準値を移すことになる。我が国では校正事業者の多くが自社の実用標準器として温度定点実現装置を持っている。この場合校正事業者は自社の温度定点実現装置を使って、一般の熱電対に対して校正サービスを行う。3.2 シナリオの設定産総研としてはまず、仲介標準器として何を選択し、どの温度定点を使って校正サービスを行うかのシナリオを二つの観点から検討した。計量標準の設定方法は、世界各国の国立標準研究機関が研究開発を競い、新たな方法が提案されたり、これまでの方法の評価や改良が行われたりしている。これらの成果を積極的に取り入れ、質の高い計量標準を設定し、それを出発点とした標準体系を作ることが理想的である。一方、標準の受け手である校正事業者は、従来から使っている方法によって標準の供給を受ける方が、自社の設備や校正手順がそのまま使える点で対応が容易であると言える。この相反する二つの観点から、図2に示すような四つのシナリオを検討した。Cu 1084.62 ℃Ag 961.78 ℃Pd-C 1491.9 ℃Co-C 1324.0 ℃Pd 1553.5 ℃産総研が保有する国家計量標準移送される仲介標準器校正事業者が保有する標準現場で使用される熱電対温度定点実現装置純金属の凝固点金属と炭素の共晶点純金属の融解点白金パラジウム熱電対(純白金/純パラジウム)R熱電対(白金ロジウム合金/純白金)種々の温度定点実現装置、R熱電対種々の実用熱電対(1000 ℃~1550 ℃)図1 熱電対のための高温トレーサビリティの基本的枠組み

元のページ 

10秒後に元のページに移動します

※このページを正しく表示するにはFlashPlayer9以上が必要です