Vol.3 No.1 2010
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研究論文:臨床情報学のための野外科学的方法(木下ほか)−43−Synthesiology Vol.3 No.1(2010)の適用実験。例えば、市場から報告のあった原因不明の障害の解析を行なう、など。e)【目隠し実験】「解答」があるような技術適用について、過去の開発事例に関する解答を隠して、それに技術を適用し、正しい解答が得られるかどうかをみる。また、1)における評価の体制がいくつか考えられる。a)研究者のみからなるチームb)研究者と技術者の混成チームc)技術者のみからなるチーム初期にはa)によって技術を提示し、b)によって技術者に技術を漸次伝えて、最後にはc)による適用実験を行って技術移転全体の評価をする。6 二つの事例CVSで行なわれた共同研究のうち、3年以上継続し、技術移転の中長期的なテーマに触れるものが二つあった。本節では、これら二つの共同研究の結果およびアウトカムの評価を試みる。6.1 P社との共同研究P社との共同研究は、高い品質のソフトウエアを開発する手法を求めるP社によるモデル検査導入への要請に応えるべく開始した。以下のような経過をたどった。1.小規模なプログラム事例について【雛形実験】を行った。一ヶ月程度をかけてモデル検査による検証を行いP社側でモデル検査による検証がどのような経過をたどるのかを理解すると同時に、我々の側ではP社が用いている仕様書の読み方を学び、P社の仕事の領域知識の初歩を身につけた。2.前項をいくつか繰り返した後、【目隠し実験】を行った。ここで発見すべき不具合はすべて発見し、モデル検査の効果を説得するための好材料を得た。3.これまでは研究部門との仕事であったが、事業部での開発過程にモデル検査を採用させるため、属人性を排したマニュアル化を行おうと考えた。そのため、事業部との共同研究に移り、【開発前実験】および【開発後実験】を重ねながら、一定期日に1モジュールの検証を終了するマニュアル作成のための検査手順の方針を作成した。その後マニュアルは事業部の技術者のみで完成させた。この共同研究の後、P社事業部内で、モデル検査をどのように採用したかについてはっきりしたデータの提供が得られないが、大規模な採用には至っていないと推測される。技術移転を成功させるためには、本稿で議論したような適用実験で解決できる問題以外にも、当然であるが他にも考慮しなければならないことが様々ある。例えば、研究所側としては、共同研究のできるだけ早い段階で、何がどのような形で知的財産や学術研究成果になるか、という見通しを立てておくことが重要であることを、この共同研究をとおして痛感することとなった。たとえば、上記3.でのマニュアル作成にあたって、最終的な成果物であるマニュアルは技術者のみで作成したが、これにより、技術者と研究者の情報共有が滞ることとなった。今から考えると、研究者側も、最終的なマニュアル作成も積極的に支援したほうがよかった。これらの情報は知的財産や学術研究成果としてよりも、マニュアル化して初めて価値の出るものだからである。6.2 Q社への技術移転Q社への技術移転は、Q社の技術者がモデル検査に興味を持ち、理解を示したQ社のトップが、技術者を1名、2年間にわたって産総研に移籍派遣したことに始まる。このときにQ社のトップがモデル検査の技術の有効性を証明するデータなどを一切求めず、技術者が魅力を感じるかどうかを重要視したのは印象的であった。P社との共同研究が、マニュアル化して大量の技術者にモデル検査を広めることを意図したのに対し、Q社の場合では、1名の技術者に徹底的に技術を教え込むという、極めて属人的方法での技術移転を志すこととなった。CVS内でのいくつかの研究プロジェクトに参加し、【復元実験】や、【開発前実験】を繰り返した経験をQ社に持ち帰った。その結果、関連共同研究終了後も当該技術者を中心に、企業間でモデル検査が研究会を結成される一方、社内でもモデル検査の教育コースを自作して教育にあたるなど、能動的な活動が見られた。このように、同じ技術を同じソフトウエア開発という現場に適用する二つのフィールドワークでも結果は大きく異なった。これは、ソフトウエア開発現場の多様性によるものではないかと考えられる。一般に情報技術の技術移転には、フィールドワークのような質的アプローチが有効であるように思われる。情報技術を適用する対象が多様だからである。技術者のみ混成チーム研究者のみ実施体制適用実験実験形態目隠し実験開発後実験開発前実験復元実験雛形実験図2 適用実験の分類
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