Vol.3 No.1 2010
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研究論文:石油流量国家標準の確立とわが国の標準供給体制(嶋田ほか)−28−Synthesiology Vol.3 No.1(2010)などの他の物理量を用いて組み立てることにより決められるため、国家標準を供給する上で、他の標準から標準流量の組み立てを「どこで、誰が」行うかを明確にする必要がある。これまで我が国では石油流量の国家標準として使用できる校正装置がなかったため、上述した他の物理量から流量を組み立てる作業は流量計のメーカーやユーザーに委ねられており、その信頼性は明らかではなかった。標準流量の供給方法はおおまかに次の三つに分類される。(1)国の計量標準機関(National Metrology Institute)が流量標準を供給する方法 国の計量標準機関によって国家標準として流量標準を組み立てれば、信頼性が高く、理想的な標準供給体系を構築することができる。しかし、石油製品は多種多様であり、また必要とされる流量の範囲が非常に広いため、社会で用いられるすべての液種、流量範囲に対して流量標準を作成し、供給することは現実的ではない。仮に現場で使用される多様な流量計測条件に対応して、国家標準の水準で小さな不確かさをもつ流量標準を供給しても、それに伴って高い供給料金が課せられることになり、結果として、不確かさとコストのバランスを追求するユーザーは(2)で述べる校正事業者を選択することになると予想される。(2)他の物理量の標準(体積など)を用いて校正事業者が流量計の校正を行う方法 国家標準として流量標準を採用せず、例えば質量標準と密度標準を使用して校正事業者が流量計の校正を行う方法である。この方法では、校正事業者が質量標準と密度標準を用いても、不適切な組み立てにより流量計を校正した場合には、重大な補正量の見落しや不確かさを過小評価してしまうなどの問題が生じやすい。また、小さな不確かさを達成する技術の確立は個々の校正事業者にとって多大な負担となり、結局は計量管理のための社会的コストが増大することになる。また、信頼性を担保することが難しく、ユーザーに不利益が生じる可能性が大きい。一方、この方法は拡張性が非常に高いため、校正事業者が必要とする多種多様の液種や流量に対して運用できるという特長がある。(3)外国の機関などから供給される流量標準を用いる方法 数多くの国々で採用されているが、他国の標準に依存するため、国内で必要とされる小さな不確かさを達成することは難しい。さらに、校正のために流量計を海外に輸送する必要があり、その過程で信頼性が低下する。図1に代表的な石油流量の標準供給体制の概略を示す。ヨーロッパでは基本的に(1)の方法が採用され、流量標準が供給されていない範囲では、(2)の方法により認定機関が流量の組み立ての妥当性を検証する体制がとられている。校正事業者の能力を担保するために、国際基準規格(ISO17025)では技能試験を要求しているが、これを適正に実施していない例が生じており、問題となりつつある。そのため、最近では、新たに石油大流量(最大流量5000 m3/h)の国家標準相当の校正設備を建設するなど流量標準の供給範囲の拡大が進められている。アメリカでは、(2)の方法が主に採用されており、市場の競争原理に従い、校正事業者によって流量の組み立てが行われている。認定機関により校正事業者の認定が行われているが、現状では、世界で最も小さな不確かさをもつ国家標準よりもはるかに小さな不確かさを表明するといった技術的に不適切な不確かさで認定されている事業者も散見されている。この問題に対処するために、アメリカでは、法律で石油製品の売り上げの一定割合を米国石油協会(American Petroleum Institute:API)に集め、この資金を元に流量計の校正の信頼性を保証する技術基準(API規格)の策定と実施を積極的に行っており、政府に頼らない小さな政府を志向した、民間レベルの標準の信頼性確保に対する努力が払われている。このような仕組みのない日本ではそのまま(2)の方法を導入することは難しいと考え図1 石油流量の標準供給体制の概略ヨーロッパ国家標準質量標準・体積標準など流量標準校正事業者流量流量現場流量計流量標準の増強流量標準の供給(1)流量の組立(2):国家標準がない範囲アメリカ国家標準質量標準・体積標準など流量標準校正事業者流量現場流量計流量標準の供給(1):ほとんどなし流量の組立(2)日本国家標準質量標準など流量標準校正事業者流量現場流量計流量で液種拡張(ガソリン・重油へ)流量で流量範囲拡大(大流量へ)灯油・軽油~300 m3/h流量標準の供給(1)流量流量
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