Vol.3 No.1 2010
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研究論文:マイクロチップを用いたバイオマーカー解析コア技術の開発(片岡ほか)−22−Synthesiology Vol.3 No.1(2010)インクジェットのヘッド部分を交換するだけで複数種類の抗体溶液の吐出が可能になり、1本のマイクロ流路上でわずか1.8 µlの血漿サンプルから複数のバイオマーカー検出が可能になる。現在、我々は複数種類の血中バイオマーカーを同一マイクロ流路上で定量的に検出できる抗原抗体反応系の最適条件としての各種一次抗体や二次抗体濃度の洗い出しを行っており、マルチマーカー検出マイクロチップの構築、特に生活習慣病として注目される糖尿病や骨粗鬆症の診断チップの作製を目指している。糖尿病診断では、血糖値に加え、抗原抗体反応での検出が可能なインスリンや高感度CRP測定をオンチップ化することで、正確な診断が極微量の血液で可能になる。また骨粗鬆症では骨形成マーカーPICPと吸収マーカーNTxの双方を同時に測定することで、詳細な病態が明らかになる。さらにコスト面での長所を考えると、現状の検査ではインスリン検査に2640円、CRP測定に1560円が必要であり、血糖値測定を合わせ3項目で計4310円となる。また、骨粗鬆症ではPICP測定で1700円、NTx測定で2900円の計4600円が必要とされる。抗原抗体反応検出系のコストは、試薬としての抗体費用が占める部分が大きい。したがって、インクジェットによる抗体固定法を用いれば、96穴プレート法に比べ、PICPの場合では抗体使用量は約1/10000となり、抗体費用は桁違いに削減できる。そのほか1本のマイクロ流路上に複数種類の抗体固定を行うことで、使用する検出試薬量も大幅に節約され、材料費の安価なプラスチック基板との併用により十分な採算性が見込める。4 今後の課題我々は、生物系ユーザーの立場から前述のようにマイクロチップ電気泳動やマイクロチップ基板など、既存の技術を基礎にしてバイオマーカー検出系の構築を行ってきた。マイクロチップ電気泳動などでは、新たに装置やソフト開発に時間と労力をかけずに、市販のチップと泳動装置、解析ソフトをそのまま利用するだけでその生物学・生化学系の実験への適用や臨床検査への応用性を示すなど、比較的短期間で個々の既存技術のポテンシャルの高さを明らかにできたと考える。しかしながらPOCTデバイスの実現に向けては、以下に述べるように生物学的アプローチのみならず、微細加工を中心とする工学系や医学系、さらには将来のデータベース化などには情報系など、幅広い分野を超えた技術者・研究者による連携が必要と考える。糖やタンパク質を対象としてマイクロチップ基板上でのバイオマーカー解析のコア技術は構築できたと考えるが、さらにこれをPOCTデバイスとして臨床の現場で実際に用いるには以下の課題が残されている。上述のマイクロチップ基板では従来どおりの遠心分離による血球分離を行った後、血漿成分をマイクロチップに添加して解析を行っている。したがって、臨床の現場で医師が問診中に血液検査が行えるようにするには、血球分離の簡易化が必要となる。そのために、全血をマイクロチップに添加するだけで、血球分離を含めて解析できることが求められる。µl単位の極微量の血液で検査を可能にするため、既存のディスポーザブルな微量採血針によって採血された全血から血球成分を取り出すフィルターを組み込んだ、マイクロ流路上での血漿分離システムのオンチップ化を目指している。さらに、マイクロチップ電気泳動流路やマイクロフルイディクス流路のサンプルウェルへ自動的・定量的に必要量の血漿を送り込むためのマイクロポンプによる送液系の構築が必要になる。また多項目バイオマーカー検出チップの実現には、1枚のマイクロチップ上に、物質の電荷、大きさ、形状による移動速度の違いで物質の分離を行う電気泳動系と、極微量の液体の送液を行い抗原抗体反応系で利用するマイクロポンプ 用語3系という原理の異なる分離・分析系を併存させる必要から、複雑なマイクロ流路設計が求められており、プラスチック成型を含む微細加工技術に長けた企業などとの連携が必要と考えている。上述の技術課題を含め、検出系や解析ソフトの開発など周辺技術の統合・構築を行い、POCTデバイスとして早期に医療用検査機器として試作機を製作する。この際、まずは対象疾患としては日本の成人の中で数百万人から一千万人に及ぶ患者が存在する糖尿病や骨粗鬆症などの疾患別診断チップを構築する。そして大学病院や専門病院との共同研究の中で既存の臨床検査データとの比較からPOCTデバイスとしての有効性の検証を行う。そして医療検査機器として薬事法に基づく厚生労働省の認可を得るようにデータ収集を進め、POCTデバイスとしての開発を進める予定をしている。POCTデバイスとして医療現場へ導入を行った後、家庭レベルでの健康モニタリングのバイオマーカー測定デバイスの基盤として導入を図る。用語説明ブロッキング:抗原タンパク質以外のタンパク質や固相表面に対する抗体の非特異的結合を防ぐことを意味する。ブロッキング剤としては、ウシ血清アルブミンやゼラチン、スキムミルクなどが用いられる。非特異的発光:ブロッキングや洗浄操作が不十分なために、ペルオキシダーゼ標識二次抗体が非特異的にタンパク質や固相面に結合後、ペルオキシダーゼの酵素基質を分解して発光すること。バックグラウンドノイズとなる。マイクロポンプ:微量液体を駆動するための圧力発生を目的とする液体制御素子のこと。用語1:用語2:用語3:
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