Vol.3 No.1 2010
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研究論文:マイクロチップを用いたバイオマーカー解析コア技術の開発(片岡ほか)−18−Synthesiology Vol.3 No.1(2010)目指して、すでに市販されているマイクロチップ電気泳動やマイクロフルイディクスを用いた個々のバイオマーカーの最適な検出のための条件を明らかにして、バイオマーカー検出系のオンチップ化を行っている。3 マイクロチップ基板のPOCTデバイスへの応用3.1 マイクロチップ電気泳動による糖解析を利用したバイオマーカー測定法の構築3.1.1 マイクロチップ電気泳動の生物学・生化学的解析への応用半導体作製技術に基づく微細加工技術を用いて、数センチ角のプラスチックやガラスを材料とするマイクロチップ上にµm単位の幅と深さでマイクロ流路を形成し、この流路上で電気泳動を行うマイクロチップ電気泳動装置が開発・市販されている。主に核酸やタンパク質の分離分析を行う従来の電気泳動法と比較して、マイクロ流路を用いることで省サンプル化されるとともに、流路内の体積に比較して表面積が大きくなることによる電気泳動時の熱発生の放出効率の上昇が可能になるため、マイクロチップ電気泳動は高電圧の印加による高い分離能を有する。さらにLED励起の蛍光検出系を利用することなどによる高感度化が認められる。しかしながら、これらの装置は主なユーザーと考えられる大学などの生物学・生化学系の研究室に十分普及しているとはいえない。これは使用用途が主に核酸などの分離分析に限られる上に、既存のアガロース電気泳動などと比べて泳動装置本体価格が高価なこと、サンプルあたりの解析に必要なマイクロチップやゲルの価格が約200倍程度高くなることが主な原因と考えられる。そこで我々は、泳動用チップや泳動装置・解析装置と解析ソフトの変更を全く行わずに、泳動用ゲルや泳動用緩衝液組成の条件検討を行って泳動条件の最適化を図ることで、核酸などの分離分析以外への適用を試みた。そして日常的に生物学・生化学分野の研究室で行われている種々の実験法について、サンプルリザーバーを反応場として利用するオンチップ制限酵素処理に引き続いて電気泳動による解析を行なうことで、Mg2+イオンなど制限酵素活性に必須のイオンや酵素などタンパク質の存在が電気泳動に影響しないことを明らかにした。この結果をもとにオンチップ制限酵素処理法を設計し、迅速な制限酵素切断断片長多型解析を行った。そのほかミトコンドリア膜電位測定、さらに合成RNA解析やDNAのLigation反応の解析などへの応用が、泳動装置本体や付属解析ソフトの変更を必要とせずに生物系の研究者でも簡単に行える泳動条件を変更するだけで可能となることを報告した。そして核酸の分離分析のみならず、各種酵素処理とその解析が迅速・省サンプル・高感度に行えるなど、マイクロチップ電気泳動の長所を生かした生物学・生化学的解析への応用性の高さを報告した[4]-[8]。これらの成果は、種々の実験操作にマイクロチップ電気泳動法が応用可能であることを示しており、結果的にコストダウンが期待される。3.1.2 マイクロチップ電気泳動の血糖値解析への応用これらの知見をもとに、我々はPOCTへの応用を見据えて、市販のマイクロチップ電気泳動装置とマイクロチップを用いて血中バイオマーカー解析への応用を行った。各リザーバーの容量が10 µlであることからピペットマンによる溶液ハンドリングが簡単に行え、泳動ゲルや泳動用緩衝液の変更が容易な日立SV1100をマイクロチップ電気泳動装置として利用した。さらにマイクロチップ基板としては付属のチップを使用した。図3にSV1100上で用いる付属のポリメタアクリレート(PMMA)製i-チップを示す。i-チップには幅100 µm、深さ30 µmのマイクロ流路が3本形成されており3サンプルの同時解析が可能になる(図3A)。泳動操作も簡単であり、ゲルリザーバー(GR)から添付のゲルを充填後、サンプルリザーバー(SR)に内部標準用DNAを含む計10 µlのサンプル溶液を加えて導入泳動と分離泳動を行い、蛍光検出によりDNAの分離・解析を行う(図3B)。このマイクロチップ電気泳動では、従来のアガロース電気泳動に比べて省サンプルでありながら検出感度は約10倍、泳動開始から数分以内に解析結果が得られ、わずか数塩基の誤差でDNAの分離分析が可能になる。我々はこのマイクロチップ電気泳動において糖構造を含むDNAの分離分析能の高さに注目し、付属のDNA解析ソフトをそのまま利用して、血中バイオマーカーの中で糖構造を有するもの、あるいは酵素基質として糖を利用するものとして血糖やアミラーゼに注目し解析を行った[9][10]。血糖測定では、血漿に蛍光色素2-aminoacridone (AMAC)を加えてグルコースを直接蛍光標識した後、泳動用緩衝液としてホウ酸緩衝液を使用してグルコースにマイナス荷電を加え電気泳動時のドライビングフォースとして利85 mm30 mm50 mmGRGRGRSRA.B.蛍光検出GGG+GGG+G+++図3 日立i-チップの模式図(A)とクロス流路におけるサンプル分離(B)。+は陽極を、Gはグラウンドを示し、矢印はサンプルDNAの泳動方向を示す。
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