Vol.3 No.1 2010
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研究論文:マイクロチップを用いたバイオマーカー解析コア技術の開発(片岡ほか)−17−Synthesiology Vol.3 No.1(2010)とが原因である。この臨床検査の外部委託の模式図を図1にLundbergらにより提唱されたBrain to brain loopモデルをもとに示す[2][3]。一方、POCTでは医療現場において患者の傍らで検体採取・検査法の選択を行い、その検査から直接検査結果が得られる。これによって患者の最初の医療機関への受診時に確定診断が可能になり、迅速な治療の開始・治療効率の向上・通院負担の軽減、医療費の低減など患者自身と医療機関に、さらには社会にとって大きなメリットがあると考えられる。また臨床医側のメリットとして、緊急の外科処置が必要な場合などで、患者の感染症や全身疾患の有無あるいはその病態の把握など、処置方法を決定するのに有用な情報がその場で獲得可能になることである。現在は、心筋梗塞やインフルエンザ感染診断キットなど、特に急性の疾患や感染症など短時間での診断を要するもの、血糖値測定や手術室での血液ガス測定などを対象にPOCTデバイスが開発され臨床現場へ導入されつつあるが、特定の疾患関連バイオマーカーのみを解析対象としており、さらに定性的検出法が多いなどの問題がある。現状のこれらPOCTの問題点を解決して、複数のバイオマーカーを定量解析できるPOCTデバイスを開発することは、将来の個人レベルでの複数バイオマーカーモニタリングのための基盤技術になる。また、POCT技術を確立して医療現場でその有用性が認められてこそ、社会に対して個人の健康モニタリング技術を認識させうると考える(図2)。そのためにもできるだけ早期に定量性を示す複数バイオマーカーの解析が可能なPOCTデバイスを実現させる必要性がある。一方、最近のナノテクノロジーを利用した分析技術により、検査技術の迅速・省サンプル・高感度・機器の小型化が種々図られており、その典型的な技術開発の対象として各種マイクロチップを利用したデバイス開発がある。このデバイスは次章で述べるようにPOCT、ひいては個人レベルでのバイオマーカーデバイスとしてのメリットが多い。そこで上記の目標達成に向けたステップとして、この既存のマイクロチップ基板技術の組合せ、つまり市販の核酸解析用のマイクロチップ電気泳動装置を用いた糖解析や微小流体を取り扱うマイクロフルイディクスを利用したマイクロ流路上での抗原抗体反応系の構築など、POCTデバイス開発に向けたナノバイオデバイスの応用例を示す。さらに臨床経験を踏まえた生物系のユーザーの立場から残された課題について記載する。2 POCTデバイスの必要要件POCTデバイスには診察室や病室の患者の傍らで迅速にバイオマーカーの測定が可能になることが必須であり、30分以内での解析[1]、臨床診断に利用可能な検出感度と再現性を有して、現状の臨床検査法と同等ないしそれ以上に正確な測定、診察室などへの設置が可能なコンパクト性、医師が問診時にでも操作できることが求められている。一方、通常の血液検査では一検査項目あたり数ml単位の血液が必要で、患者自身に大きなストレスを与えるとともに、試験管レベルでの解析では大量の検査試薬が必要になるためにコストがかかる問題がある。そのため、POCTに限らず臨床検査では微量サンプルでの解析系が求められている。また血液などを検査対象とすることから、検査終了後は滅菌操作が簡単に行える材質であることなどが必要になる。さらに複数の検査項目を一つのデバイスで検出可能とするニーズも考慮に入れて、我々はこれらの要件を満たす技術として、微細加工技術に基づくマイクロ化学チップ技術、つまり解析しようとするサンプルの前処理・分離・反応・検出などの化学や生化学分析のための操作を数センチ角のマイクロチップ上に集積化するマイクロ化学分析システムに注目した。そしてPOCTデバイスへの応用を図1 現状の臨床検査会社に依存した検査の流れ。POCT診断・治療検査結果検体の分析・解析検体保存・運搬検体採取検査の指示受診結果血液臨床検査診断マーカー情報データベース複数バイオマーカー検出技術POCT病院の受診臨床検査家庭での複数バイオマーカー検出図2 POCTに必要とされる要件と集積化マイクロチップ基板の模式図。マイクロチップ基板上に血漿分離機構が組込まれ、マイクロチップ電気泳動とマイクロフルイディクス系の流路を有する。
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