Vol.3 No.1 2010
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研究論文:1550 ℃に至る高温度の計測の信頼性向上(新井ほか)−15−Synthesiology Vol.3 No.1(2010)議論2 白金パラジウム熱電対の安定化の要因コメント・質問(濱 純:産業技術総合研究所評価部)白金パラジウム熱電対の校正の不確かさの要因とされるドリフトと不均質を低減させる熱処理条件などを見出し、その不確かさの評価方法の文書化から、校正方法や品質システムの確立までの一連のプロセスは、仲介標準器の開発および企業への高精度の温度計測の還元のポイントとなる成果です。なお、成果をより明確に理解し、さらに信頼性向上の可能性を推測する意味で、以下の点についてご回答願います。白金パラジウム熱電対の場合、ドリフトや不均質の不確かさを抑制する熱処理条件等のガイドラインは説明されていますが、なぜ安定化するのかの要因はどのように考えたらよいですか。また、R熱電対では、同様な熱処理温度ではドリフトや不均質が小さくならないのはなぜですか。回答(新井 優、小倉 秀樹、井土 正也)図9(c)では曝露によってゼーベック係数が増加する傾向のみを模式的に記載しましたが、白金パラジウム熱電対の場合は、室温から1300 ℃までの温度域では曝露によりゼーベック係数が小さくなる温度領域と大きくなる温度領域があります。そのため、事前に適切な温度で十分に長い時間熱処理を行うことにより、素線内部に発生した電場の熱電対素線に沿った積分値の変化をとても小さくすることができます。さらに、白金パラジウム熱電対では、曝露によるゼーベック係数の変化は時間の経過とともに飽和する傾向があるので、熱起電力は最終的に安定化します。一方、R熱電対では、1000 ℃付近で白金ロジウム合金の組成が変化し続けるため、ゼーベック係数は飽和せずに小さくなり続け、その結果、ドリフト量も飽和せずに起電力は減少し続けることになります。議論3 白金パラジウム熱電対の不安定性の微視的原因質問(小野 晃)白金パラジウム熱電対を特定の温度で最終熱処理することによってドリフトと不均質を著しく低減できるということは、本研究の重要な発見と思います。ドリフトと不均質の原因はパラジウム素線の方にあるとしていますが、パラジウム素線は純金属であり、高温への曝露によって組成の変化はないように思います。そうするとドリフトと不均質の低減の原因は、パラジウム素線の微視的な構造変化が抑制されたのかと想像しますが、著者らの見解はいかがでしょうか。またパラジウム素線で起こる微視的変化は、材料学や物性論の視点から現在どの程度まで説明できていますか。熱電対のドリフトと不均質を低減させるためには、熱処理条件を工夫すること以外に、原理的に異なる別の方法はないでしょうか。回答(新井 優、小倉 秀樹、井土 正也)パラジウム素線の微視的な構造変化が関係していることは間違いないと思います。現在、白金パラジウム熱電対のドリフトと不均質の原因は研究者から幾つか報告されており、大きく分けるとパラジウム素線に含まれる不純物の酸化、パラジウム素線中の結晶粒の成長、が考えられています。パラジウム線中の不純物が原因であるとすれば、パラジウムに含まれる不純物が酸化して導体から絶縁体になり、その結果、熱起電力が変化すると考えられます。そのため、今後、更に精製技術が発達し、高純度のパラジウム線を作製する、もしくは不均質を成長させる不純物を除去することができれば、不均質の生成を抑制できる可能性があります。一方、もしパラジウム線中の結晶粒の成長が原因であるとすれば、事前の熱処理で結晶を十分に成長させておく方法や、結晶成長を抑制するために起電力が大きく変化しない程度の添加物を加えるという方法が考えられます。以上のように、白金パラジウム熱電対のドリフトと不均質の原因は、完全にはまだ解明されていないのが現状であり、さらに熱電対校正の不確かさを小さくするための今後の研究課題であると言えます。議論4 日本の産業界の貢献と水準コメント・質問(小野 晃)今回我が国の産業界の技術状況をよく考慮して熱電対のトレーサビリティ体系を構築しましたが、諸外国の熱電対のトレーサビリティ体系と比べて特徴があるように思います。我が国では民間校正事業者の多くが、産総研の国家計量標準ほど高度ではないにしても、高温の定点実現装置を保有し、それぞれ校正事業に活用してきたという経験があるように思います。民間事業者のこの経験を著者らはうまく活用して、我が国に世界トップレベルの信頼性のトレーサビリティ体系を構築できたのではないかと考えるのですが、いかがでしょうか。著者らが論文の中で繰り返し、「現在までに民間企業が培ってきた技術」を強調されているのはこのあたりのことでしょうか。国際比較によって産総研の技術レベルが世界的に高いことが示されましたが、もし民間校正事業者同士で国際比較があったならば、我が国の民間事業者の技術レベルは非常に高いはずと想像しますが、いかがでしょうか。このような技術の信頼性の高さをもっと国際的にアピールしていけると良いと思います。回答(新井 優、小倉 秀樹、井土 正也)我が国では、早い時期から温度定点実現装置を保有して、温度計測の信頼性を高める努力がなされてきました。また、本論文でも述べた、最新の研究であるコバルト-炭素共晶点を用いた熱電対校正用装置についても、国内の事業者は産総研との共同研究で既に製品開発しており、いくつかの校正事業者が、この装置の導入を進めています。このように我が国の校正事業者の技術レベルは、極めて高いものです。もし、校正事業者同士で、校正技術の国際比較が行われれば、その信頼性の高さが明らかに示されると思います。さらに、日本学術振興会産業計測第36委員会温度計測分科会の作業部会では、産総研を含め国内の産業界の熱電対校正事業者が参加して、熱電対校正技術の共同研究を行っており、これらの研究結果を国際学会などで積極的に報告していきたいと考えています。議論5 1550 ℃以上での熱電対の信頼性質問(小野 晃)本研究では1550 ℃までの範囲で温度のトレーサビリティ体系を構築しました。一方1550 ℃以上でも熱電対は重要な温度計として使われていますが、現状で熱電対の信頼性はどの程度と考えますか。今後1550 ℃以上の温度範囲で熱電対のトレーサビリティを構築していくとすれば、どのようなアプローチで研究を進めていくべきと考えますか。回答(新井 優、小倉 秀樹、井土 正也)熱電対は1550 ℃以上の高温でも重要な温度計です。産業界では、タングステン-レニウム熱電対が2000 ℃を超える温度まで使用されています。しかし、タングステン-レニウム熱電対は実際のところ、信頼性は良く分かっていないのが現状です。例えば、100時間程度の使用時間とした場合、おそらく1700 ℃付近では5 ℃程度、更に温度が高くなればそれ以上の熱起電力ドリフトがあると思われます。この温度域では、安定で均一な温度場を作り出すことからして難しいのですが、加えて、物質の反応性も増すため、絶縁管や保護管が熱電対素線に与える影響を調べることも必要です。熱電対の安定性評価に必要なこれらの要素を解決して研究開発を進めていくことが、信頼性の高い熱電対トレーサビリティを構築するうえで重要になると思います。最新の研究成果である、金属-炭素共晶点の高い再現性を積極的に利用するなどして、研究を進めていきたいと考えています。
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