Vol.2 No.4 2009
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−335−Synthesiology Vol.2 No.4(2009)インタビュー:工学の克復とシンセシオロジーるかもしれない。 小野 技術と科学がより接近していく時代ということでしょうか。長井 新しい科学的な知識や技術が生まれ、それを習得するスピードはどんどん速まっていくでしょうから、優れた技術で、最初からそれが科学的に裏付けられたものでないと産業的には弱くなります。必然的に技術は科学に裏付けられていなくてはいけないですから、科学と技術は接近せざるを得ないと私は思います。しかし、科学の立場から見て、技術と接近しなければいけないというつもりはあまりないのです。科学を縛りたくないですし、小柴さんのように、何千年たっても、好きなことをやっていたほうがいい、というのはかなり納得します。日本の科学と技術そして工学小野 日本の科学と技術、それから工学教育も含めて伺いたいのですが、一時、「ものまね技術」といわれていた日本の技術ですが、世界で技術革新が最も成功している国として評価されています。長井 海外では日本の技術が非常に優れていると評価されていますが、これは三つくらいの側面があると思っています。軍事技術は、アメリカが圧倒的に優れており、日本は優れていません。そういう点で、いわゆる民生技術といわれているものは、世界や国内のコンペティターから厳しい目で見られるという環境があり、それに日本もしくは日本人が対応する能力を持っている限り、圧倒的にすごいものをつくっていく、ということです。小野 日本はユーザーの意識が高いということも寄与していると思いますが。長井 はい。二つ目は、世界に向けて日本の商品を売っていくというマインドが非常に高い。三つ目は、これは意外と見落とされているのですが、私は金属材料屋なので、そういう観点からいうと、日本ほど人が多く住んでいて、地震の被害が大きい国はありません。だから、そこで使う材料は世界一強い。必然的に日本の技術はやはり強くならざるを得ない幾つかの要因を持っていると思いますが、それが事故に対しても強いとか、ロバスト性が高いという効果を持ち、そして日本ブランドができたという構図が今まであったし、これからもあると期待しています。小野 技術は世界の各地域でそれぞれ発展してきましたから、それぞれの論理を持っています。日本は、地震などの自然環境プラス少子高齢化という社会的状況、エネルギーの課題によって技術が育てられるという仕組みがあって、そこにもう一つマインドが乗り、今まで非常にうまく回ってきたということですね。技術がすばらしいのに対して、日本の科学はいかがでしょうか。長井 「何のために科学をするのか」というところが非常に難しいところがあって、世界の一流科学と戦うという意味では、日本はあまりいいポジションにいません。今のところ、材料分野は1位だと思うのですが、中国などから追い上げられています。世界は大衆グローバル化時代になり、すべての情報が行き渡るようになったといいましたが、最適なソリューションを目指していくと、地域性が非常に重要になると思うのです。他の国のまねをしていては問題解決ができない。これは科学においてもそうです。しかし、「他の国のまねをするな」というと、まねをしない人ばかりになるので、まねもしなければいけないし、多様性があってしかるべきですが、日本の技術の優れたところをもう一回見つめ直したら、いろいろと新しいテーマが出てくるのではないかと思っています。小野 日本の技術に関しては、それがすばらしいことの要因は幾つか説明ができるけれども、それと同じことを科学に求めても見つからない。今のところ、「まねをしない」ということだけくらいしか出てこないというのが、ちょっとつらい現実ですね。日本の工学ですが、かつて輝いていた時代がありました。長井 日本の戦後の工学の一番優れたものは何かを我々の研究会で分析したのですが、自信を持っていえるのは工場です。サプライチェーンというか、工場の管理、運営、操作技術トータルですが、これは完璧にすごい。世界から見ても、日本の工場技術はお手本中のお手本です。小野 産業用ロボットを入れるとか入れないとかいう話だけではなく、ということですか。長井 逆にいうと、産業用ロボットを入れるのに何のためらいもないという、それだけの見識というか土壌を持っています。産業用ロボットを入れることによる労働者の削減等々は別の問題として捉えなければいけないのですが、もともと技術革新というのは非常に苛酷なものであり、必
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