Vol.2 No.4 2009
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−334−Synthesiology Vol.2 No.4(2009)インタビュー:工学の克復とシンセシオロジー小野 西洋科学の源流の一つにキリスト教の神の世界を実現する、あるいは探求するというのでしょうか、神学と非常に結びついていたということですね。長井 はい、大陸では科学者は王家に支えられていたが、技術者は比較的卑しい身分だった。それに対して、イギリスでは科学者がお高くとまっていてあまり役立たないというので技術者・技能者が優遇されていたようです。その後、ルネッサンス時代に、「神様は非常に系統的に自然をつくったのではなくて、気まぐれでいろいろなものをつくられた。気まぐれにつくられたものをすべて理解すれば、神様に近づく」という形で百科全書ができました。このあたりから、例えばガリレオ・ガリレイが、望遠鏡がないと科学ができないとか、いわゆる考えて科学をするのではなく、実験をして科学をするということで道具との結びつきが科学史を読んでも明快に見えてきます。村上先生によれば、なぜ西洋科学が変化を遂げたのかというと、イスラムと戦ったからです。イスラム教徒が残したものを勉強して吸収したことから、実は自分たちはソクラテスやヘレニズム文化をきちんと吸収していなかったということがわかり、異文化を勉強し直すことによって、大きな転換が起こった。これは、まさにシンセシオロジーの起源のようなものですね。そして、神学の一部から百科全書という形に、系統性がなくてもいいのだという形になったわけです。小野 事実の収集がまず大事ということですね。長井 はい。産業革命のころに科学と技術が本気で出会います。技術は“もの”さえ作れればいいのです。印刷術にしろ、火薬にしろ、羅針盤にしろ、一説によれば水車も東洋から生まれたといわれていますが、つくれて使えればいい、理屈なんかなくてもいい。これは技術のすばらしいところだと思います。一方の科学は、神様がつくりたもうた深遠なる真理を追求するのですから、ある意味では成果がなくても構わない。これもすばらしいと思うので、両方とも無理やり自己規制する必要はないと思うのですが、ただ百科全書派からもう一回変わろうとしていると思います。まず、今の時代をどのように規定するかという話ですが、一つは大衆グローバル化といわれるように、フラット化したことです。そして、交通手段や通信手段の発達によって、世界は非常に小さくなっています。情報はあっという間に世界に広がってしまう。そういう点でも、新しい時代になってしまったといえます。2050年くらいに、世界の人口は今の1.5倍くらいに膨らむといわれていますから、資源やエネルギーは今の2倍くらい必要でしょうし、二酸化炭素の排出量も2倍以上になってしまうでしょう。資源やエネルギーの残寿命は縮まり、人口はピークの2050年を過ぎると世界的に平均寿命が高くなってきます。地球自体が年をとっていくというのが21世紀です。その一方で、科学や技術の発展速度は今よりもっと速まります。小野 科学や技術の発展を速めなければいけない、ということでしょうか。科学に裏付けられた技術が産業に求められる長井 いえ、速まってしまうということです。研究論文の発表数を見ても、中国やインドが参加することで格段に増加しました。参加人数が増えれば増えるほど、すごいスピードで世界の新しい情報が出てくる。セレンディピティの確率がそれほど変わらず、数を撃てば当たるということでいえば、新しいものがどんどん出てくる。それを先に利用したものが勝ちだという時代になるわけです。まさに科学者とか技術者といわれている人たちが大儲けできるかもしれないけれども、社会や人類に対してとんでもないことをしてしまうかもしれない。科学や技術が非常に重要な役割を果たさざるを得なくなるという意味では、全く新しい時代が来長井 寿 氏小野 晃 氏
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