Vol.2 No.4 2009
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研究論文:最先端の地質研究と国土の基礎情報(斎藤)−331−Synthesiology Vol.2 No.4(2009)測すると感じておられるようですが、面積的にはわずかでも、うまく地層・岩石の全体像が観察できるように歩けば充分なデータを取ることは可能です。地質図幅を作成する際には、粗い間隔でとったルートマップでも充分地質図が作成可能な所と、詳細なルートマップを取らないと地質図を作成できない所があり、日々の調査でコストも考えて地質図作成に必要充分な調査となるよう工夫しています。2)本文に書いたとおり、自治体等の公開できるボーリングデータがあれば、当然収集して地質図に反映させます。また、平野の地質図では露頭が少ない分、自治体等にボーリングデータがたくさんあることが多いので、それらを重要なデータとして手間をかけて収集・解析を行って地質図幅を作成します。これは平野では地下の地質が特に重要だからです。例に挙げた砥用図幅では、温泉業者に非公開でボーリングデータの情報を閲覧させてもらっています。3)地質図のデータもあれば収集します。自治体や政府機関の行った公共工事の際の地質図が該当します。解釈に基づく地質図は、元になったルートマップや報告書があれば、それらを含めて解釈が妥当か検討します。また、ダムやトンネルではスケッチもありますので、それらも収集します。例に挙げた砥用図幅では、自治体の温泉調査報告書の地質図を閲覧して、われわれの地質の検証に用いました(現実には小さな地域のルートマップが少し役に立った程度でしたが)。議論2 5万分の1地質図幅の整備状況と更新周期質問(小野 晃)5万分の1地質図幅が地質学の最新の成果に基づいて作成されることは分かりましたが、日本の場合どの程度の周期で5万分の1地質図幅が再調査されて改訂されるのでしょうか。具体的に今回の「砥用」以前の図幅はいつ頃作成されたものでしょうか。調査には人手と時間がかかるものと思われます。5万分の1地質図幅は現状で日本全土をカバーしている状況でしょうか。整備に関する基本的な考え方をお聞かせ下さい。回答(斎藤 眞)1)5万分の1地質図幅は基本的に再調査を行いません。それは、まだ全国カバーに至っていないからです。しかし、20万分の1地質図幅は2009年度で1回目の整備が終わり、随時最新の知見で作成した地質図幅に置き換えています。20万分の1地質図幅の改訂には、情報の乏しい地域やその地域の地質区分の基準となる5万分の1地質図幅は必要です。このため、現在では、原則空白域を優先するものの、20万分の1地質図幅の作成等に不可欠な所はわずかながら改訂しています。2)今回の5万分の1地質図幅「砥用」は過去に作成したことはありません。ただ、元々経済企画庁が行い、国土庁を経て、現在国土交通省所管で各県が作成している土地分類基本調査の中に精度の悪い表層地質図は存在しました。3)5万分の1地質図幅は、現在の産総研の人員ではなかなか全国整備率の著しい上昇は見込めませんので、今後は、重点地域を決めて整備していく方向です。重点地域の例としては、(1)人口の多い都市及びその周辺、(2)活断層、火山等、防災上重要な地域、(3)ジオパーク等社会的な影響の大きい地域、(4)日本の地質の理解のために不可欠な地域(例えば20万分の1地質図幅の改訂に不可欠等な地域)等が考えられます。議論3 地質図幅の作成は第2種基礎研究か?質問・コメント(小野 晃)Synthesiology1巻2号に「シームレスな20万分の1日本地質図の作成とウェブ配信」という題名で地質関係の研究論文があります。論文の後ろの「査読者との議論」に「議論5 地質図幅の研究」があります。そこでは地質図幅の作成は第2種基礎研究というべきか、あるいは第1種基礎研究というべきかの議論がなされています。本論文の著者はこの点に関してどのような見解をお持ちでしょうか。地質図幅の作成において、もとになる露頭の地質データは同じだとしても、その地域を担当した研究者の知識と見解によって結果としての地質図自体が大きく変わりうるといったことがあるように思います。作成された地質図の内容が担当研究者の属性に大きく依存するということになると、一方で地質図の信頼性を損なうことにもなると思います。地質図作成に標準的手順を可能な限り導入するとか、あるいは作成結果に対する他者からの査読、審査の仕組みがあれば、信頼性の向上に役立つと思います。この点の現状はどのようになっているのでしょうか、著者の見解があれば合わせてお聞かせ下さい。回答(斎藤 眞)1)Synthesiology1巻2号では、本文の「はじめに」で、著者は地質図幅を第1種基礎研究、シームレス地質図を第2種基礎研究とし、死の谷を「古い地質モデルで描かれた使いにくいデータとなる状況」においています。そして、はじめにの最終段落で、地質図の研究が第2種基礎研究の側面をもつが、近年高度な研究内容を盛り込んだ基礎研究報告書としての性格が強くなっていることから、第1種基礎研究の側面を強調して記述したと述べています。一方議論で、査読者は「今までの地質調査が全て第1種とする論理展開には無理がある」、「第1種、第2種の両方の要素があり・・・第2種に軸足がある」との意見を述べ、それに対して著者は第2種基礎研究に軸足があることを否定しています。その理由として社会的価値を実現するための、一般性のある方法論を導き出すという「第2種基礎研究」の基本が行われていないことを理由に述べています。私は、この見解の違いは地質図幅の作成に関わってきた著者と、どちらかというと利用する側に近かった査読者の研究経歴によるスタンスの相違ではないかと考えます。私は、地質図幅が査読者の第2種基礎研究に軸足を置いているという見解には同調しませんが、かといって著者のように社会的価値を実現するための、一般性のある方法論を地質図幅内で導き出すことが第2種基礎研究をいうために必要とも考えていません。第2種基礎研究的要素としては、社会的に直接利活用可能な形で知識が示されていることが重要と考えるからです。これまで地質図幅の利活用について、アウトカム調査(文献7)等を見ると、地質図幅の個々の内容または地質図幅全体を最終利用者が直接用いる場合と、コンサルタント企業等が直接利用して顧客に情報提供する場合、さらには地質図幅の成果を用いて作成した目的特化型の地質図やシームレス地質図などの別の地質図を利用して顧客に情報提供する場合まで、地質図幅を直接使う場合や間接的な地質図等を介して使う場合などさまざまな利用形態があることから、第1種と第2種の区切り線は引けず、第1種と第2種の両面をもつとしかいえません。例に取り上げた5万分の1地質図幅「砥用」は、作っている当事者の気持ちは第1種基礎研究的ですが、より利活用できるような具体的な岩相分布が精度よく示されている地質図であるべき、という意識も持って作成しています。2)地質図幅の信頼性を担保するための仕組みは本文にも書きましたがいくつか用意しています。その一つは内部での多段階のチェックで、地質図幅が産総研地質調査総合センターの信用の元に発行する出版物であることから、専門家による内部査読から、地質図幅を作成するプロジェクトの管理職による査読、そして、地質図幅を出版する部門でのチェックなど通常の論文よりも多くのチェックを経ないと出版に至りません。実際、地質図ができてきても決裁が降りず、出版に至らなかったものも存在します。また、出版後も学会等による評価を積極的に受けることにしており、例に挙げた砥用図幅も地質学会Newsで書評を書いてもらいました。また、地質図自体の表現方法については、現在JISで表記が規定されてばらつきがないようになっています。それでも地質図幅は研究成果の著作物であることから、著者の能力に依存する部分は否めませんが、地質図幅には著者名が記されており、専門家であれば著者を認識することが可能であることから、著者名の表示も精度を担保する要素になっています。これらによって最低限のレベルは担保されていると考えています。
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