Vol.2 No.4 2009
69/92
研究論文:最先端の地質研究と国土の基礎情報(斎藤)−329−Synthesiology Vol.2 No.4(2009)るのは間違いない。現在この「砥用」図幅を基にして、20万分の1地質図幅「八代及び野母崎の一部」(図1)[19]を作成したところである。また西南日本の地質構造について実証的な結果を出したことによって、日本の地質の理解が進展するものと考えられる。このように「砥用」図幅は、個々の地層・岩石についての基礎研究で成果が上がっただけでなく、それらから構成される地質図幅としても学術的に成果が上がったと考えられる。さらに、個別の成果をまとめて地質図幅として公表したことは、今後社会での活用を考えたときに大きな意義があると言える。「砥用」図幅が、これから社会でどう使われていくか検討する。地質図幅は、完成・出版後、すぐに大々的に活用されるものではなく、社会の基盤情報として数十年にわたって活用されていく。その点で地質図幅は、工学的な研究成果に比べて息の長い研究成果である。しかし現時点でも次のようないくつかの利用が想定できる。地層・岩石区分の基準としての活用例としては、著者を中心に作成した広域的な20万分の1地質図幅「八代及び野母崎の一部」[19]の編纂に5万分の1地質図幅「椎葉村」[20]とともに「砥用」図幅[12]を用いたことが挙げられる。20万分の1地質図幅「八代及び野母崎の一部」は、その一角を占める5万分の1地質図幅「砥用」の地域が最も地質の区分が難しい所であったため、「砥用」図幅の完成が20万分の1地質図幅の編纂のためには必須であった。この20万分の1地質図幅によって、九州の20万分の1地質図幅の空白域が解消されることになった。産業立地としての活用では、これまで理解が困難だったジュラ紀付加体と“黒瀬川帯”構成岩類との関係(“黒瀬川帯”構成岩類が低角な断層でジュラ紀付加体を覆う関係)(図7)が「砥用」図幅で明らかになったことによって、同様の地質の分布する地域での産業立地、例えば鹿児島県の川内原子力発電所付近の地質の理解や、周辺の地質の理解に貢献するものと考えられる。防災面では、斜面崩壊については蛇紋岩地帯の地すべりを中心に地質との関係を明らかにしたことから、今後の斜面崩壊の理解・予測にも貢献すると考える。また、活断層(後期更新世、すなわち12.5万年前以降に繰り返し活動し、今後も活動すると考えられる断層)のほか、後期更新世以降の地層が存在しないことから活断層の認定に至らなかった断層についても研究報告書の本文に記述したので、近年(後期更新世〜現在)の広域的な地殻変動の検討に使うことができると考えられる。また、本地域では、国道から林道まで様々な道路の法のりめん面(道路脇の削りとった斜面)や路盤の崩壊がしばしば起こり、これらはこの地域に特徴的な地質に起因することが多い。これらの防止の基礎資料に活用が望まれる。鉱産資源の面では、金属資源としては活用の見込みが乏しく、また山岳地に多量に存在する石灰岩の分布も初めて明らかになったが、現在採掘されている北部の交通の便の良い所以外の開発の可能性は低い。その他の鉱産資源や砕石等の資源についても同様である。一方、温泉掘削業者からは、「砥用」図幅内の温泉調査の際に、「地質図幅があれば必ず使う」といわれており、今後活用され温泉開S, D, C, P, Tr, J, K1=正常堆積物P2, J1, J1-2, J2-3, J3-K1=付加体 ([m]メランジュ, [c]整然相)蛇紋岩メランジュ蛇紋岩メランジュ栗木向斜?N竜峰山Gr.UYTL(物部川層群)砥用層K1広平U.P2[m]P2[m]CSDBTL地下構造のモデル四万十帯白亜紀堆積岩コンプレックス五家荘変成岩仁田尾U.J1[c]TrcbaDCS与奈久U.走水U.高岳U.深山U.小田尾U.川口層,八竜山層,袈裟堂層,今泉川層(“先外和泉層群”)J1[m]J1[m]J1[m]PJK1K1-2[c]J3-K1[m][c][c]J1-2J2-3尾前U.樅木U.S図7 「砥用」図幅中南部の概略的な断面図ジュラ紀付加体(J1,J1-2,J2-3,J3-K1)の上に蛇紋岩(図では蛇紋岩メランジュ)、正常堆積物、ペルム紀付加体(P2)が存在する。両者の境界はもともと水平に近い断層。現在は褶曲(地層が曲がること)している。この図に「砥用」地域の地質の考え方や形成史が凝縮されている。
元のページ