Vol.2 No.4 2009
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研究論文:最先端の地質研究と国土の基礎情報(斎藤)−327−Synthesiology Vol.2 No.4(2009)調査は始まる。そして、それらの相互関係がどうかを明らかにするが、それが地質図作成には特に重要である。地層・岩石の性質は、少しでも露頭があれば最低限の情報は得られるが、地層・岩石の相互関係の認定には境界部を見つけることが必須である。そのためにはある程度、文献や地形から地質モデルを想定し、境界部のありそうなところを事前に予想して調査を行う必要がある。限られた日程の中で調査を行うために、事前に地質の予想を立て、最も効率的に調査を行う。また、地質調査は自然の観察であることから、予想どおりの結果が得られないことが普通である。そのため、一つの露頭情報が得られるごとに、予想される地質モデルを常時頭の中で改訂し、最も適切な調査方法を選択・変更して調査を行っていく。「砥用」図幅では、多くの地域が山岳地のため、道路沿い、谷底、尾根とルートをとるように調査を行い、地層岩石の分布を明らかにした(ルートマップの作成、図5A)。特に他の地域に比べて地質の分布と相互関係が複雑と予想されたため、詳細な野外調査を行ったが、予想以上に複雑で予定より多くの調査日数を要した。3)野外での調査と平行して、地質図の作成のため岩石試料、化石試料を持ち帰り分析を行ってその結果を地質図に反映させる。岩石試料については0.02−0.03 mmの厚さのプレパラート(岩石薄片)にして、顕微鏡で観察し構成鉱物からみた岩石の種類や変形、変成の確認を行う。また、微化石の産出が想定される試料は薬品による処理を行って、顕微鏡下で微化石を探す。また、鉱物分離を行って、重鉱物の種類の検討、放射性元素を用いた年代測定など、必要な室内研究を行う。これらによって野外での観察だけでは得られない地層・岩石の形成年代、性質、形成場などの情報が明らかになり、それらを再度、現地調査の際にフィードバックさせる。これらそれぞれは、大学等で行われているような学術研究(第1種基礎研究)に相当する部分が多く、重要な結果が得られれば単独の論文として発表する。砥用図幅の場合、地質図幅の作成に至る前、また作成中に次の学術論文を発表した。(1)下部白亜系砥用層の層序と構造の解明[13](2)下部白亜系砥用層の基盤がペルム紀付加体であることを認定[14](3)後期デボン紀シダ植物Leptophloeumの発見からデボン紀の地層の存在を認定[15](4)砥用図幅北部の肥後変成岩の低圧高温型変成作用の解明[16](5)単斜輝石岩の巨晶の発見と記載[17](6)ひすい輝石の産出地の発見と周囲の岩石との関係[18]また、このほかに学会での口頭発表を行った。6 要素研究の統合による地質図幅の作成上述の個々の要素研究から、5万分の1地質図幅 「砥用」をまとめた(図6)。この地域では、古生代初めのカンブリア紀の後期(約5億年前)から現在までの地層・岩石が存在することが明らかになった。このため異なる地質を分類するための凡例数は149になり、これまでの5万分の1地質図幅では最も多いケースとなった。また、付加体の概念を取り入れた地質図となっており、その他にも前出の研究に基づく最新の情報や、これまでに本地域で行われた数多くの研究成果(例えば大型化石の産出報告)に基づいて作成されている非常に精緻な地質図となった。そして、地質図幅とセットで出版された研究報告書(図6)には「砥用」図幅地域の地質区分の基準となる数多くのルートマップ、付加体の年代を決定するための微化石データなど、「砥用」図幅の研究によって得られたデータが収録されており、現在印刷中の広域的な地質図(20万分の1地質図幅「八代及び野母崎の一部」[19])の基準となる地質図にもなった。前述のように地質図を作成する際に重要なのは、その地域の地質の形成史が、存在する地層・岩石の分布や相互関係と矛盾しないようにすることである。このため、各担当者間で数多くの議論を行った。一例として、ジュラ紀付加体とそれらを低角な断層を介して覆う蛇紋岩や変成岩、浅海成の堆積物などとの関係や全体の形成史について議論した。これによって主たる研究課題の一つであった「ジュラ紀付加体の上に“黒瀬川帯”構成岩類が低角な構造で覆っているか否か」については肯定する証拠を得て断面図を描き(図7)、西南日本の地質構造について重要な実証的な成果となった。さらに“黒瀬川帯”構成岩類の内部についてもある程度の区分ができるようになり、その結果、それらがジュラ紀付加体の上に低角な断層で重なってから現在までの地質構造の形成史についても結論を得ることができた。また、「砥用」図幅では、研究報告書に断層露頭の位置情報も示して、断層の確実性やその連続性の信頼度の向上を図るとともに、断層の認定の議論の過程で、「砥用」地域内に伏在する活断層の位置の確定や、活断層の認定には至らないものの、地質学的に活断層の可能性が疑われる断層についても認定できた。7 地質図幅「砥用」の価値と利活用5万分の1地質図幅「砥用」の作成によって、地理的・学術的に調査が困難な地域であった本地域の地質について、基礎的な研究成果が上がり、最先端の情報に基づいて高精度の地質図が作成できた。これによってこの図幅が当該地域及び周辺地域の地質を判別するための基準にな

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