Vol.2 No.4 2009
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研究論文:最先端の地質研究と国土の基礎情報(斎藤)−325−Synthesiology Vol.2 No.4(2009)成した(図5)。2)その地域の地質において、現状の位置に定置した年代の古い地層・岩石ほど、その地域におけるより若い地層・岩石に起きた断層や褶曲などの変形を重複して受ける。このため例えばある付加体が形成された後に起きた地層・岩石の変成、変形を正確につかむことによって、現在の地質構造との差分としてその付加体が形成される前に起きた変形を理解することができる。このためそれぞれの担当者間でルートマップ等の情報を共有し、また境界部は共同で、また重複して調査を行うなど担当者間の相互連携を確実に行った。3)地質図を作成する際に重要なのは、想定するその地域の地質の形成史(その地域の最も古い地層・岩石の形成時の姿から現状に至るまでの歴史)が、存在する地層・岩石の分布や相互関係と矛盾しないようにすることである。作成した地質図から、新しい地層・岩石や断層褶しゅうきょく曲などの変形を順に取り除いて、時間をさかのぼるほど、それぞれの地層・岩石の形成時の姿に近い形に戻すことができるはずである。形成時の姿に戻したものが、現在知られている地層・岩石の形成の姿と矛盾がないことが地層・岩石の斉一説(現在起きていることは、過去にも起こっていたという考え方)の観点から重要である。そして、それぞれの地層・岩石の形成史に互いに矛盾がないようにしなければならない。「砥用」図幅では、このための議論を重ねて地質図幅全体を作成した。地質図幅の場合、異なる分野の研究者が一つの地質図幅を作るための議論を行うことから、作成された地質図はより精度の高いものとなる。大学等が研究普通の地層(正常堆積物)のでき方の一例付加体(付加コンプレックス)のでき方の一例普通の地層(正常堆積物)と付加体の違い地層累重の法則下にある物ほど古いa, b, cの順にたまっていく →川c. 海溝でたまる粗い地層(タービダイト)b. 海溝の大洋側でたまるやや細かい地層(泥岩など)a. 陸から離れたところでたまる細かい地層(チャートなど)海底に近い部分は玄武岩→下にある物ほど新しい付加体7の順に付加1→粗い地層がたまる(タービダイト)海溝← 海洋プレート(付加コンプレックス)付加体断層断層断層断層大洋側陸側図4 普通の地層と付加体の地層との違い普通の地層の場合は下から上に向かって順に新しくなるのに対し、付加体では海溝付近で堆積する地層(c)の年代に着目すると、断層で境されたa-b-cの地層のセットの年代が1c→2c→3c→4cの順に下に行くほど新しくなる。普通の地層の見方にとらわれて、このようなでき方を理解しないと、付加体の地層は理解できない。で地質図を作成する場合、研究者が自己の興味ある対象に特化して地質図を作成するため、他分野の研究者と十分に議論を尽くす機会が乏しく、地質図という観点からは精度の良い物を作成するのは難しい。以上3点の他、地質図幅の発行主体としての地質調査総合センターは、地質図幅の精度を担保し、また科学技術の成果としての再現性(少なくとも地質図に含まれるデータの部分については誰がやっても同じ結果になる)を担保する必要がある。組織として精度を担保するために地質調査総合センター内部の決裁システムと連動した数段階にわたる査読システムがある。また地質学会等で書評の形で外部評価を受けている。再現性の担保については、ルートマップやボーリングなどの生データを研究報告書に掲載するよう努めており、採取した化石・岩石試料のうち、研究報告書に記載した試料については産総研の地質標本館に登録・保存して後からの検証が可能なようにしている。今後さらにルートマップ等の生データをデータベース化できるようにする検討は必要である。5 地質図幅「砥用」を構成する要素研究一般的に5万分の1地質図幅を作成する際の技術(手順)と要素研究は以下のとおりである。この後、統合して1枚の地質図幅にまとめる。1)野外調査を行う前に、これまでの文献のチェック、段丘、活断層等の予測をつけるための航空写真、人工衛星写真の検討は必須である。「砥用」図幅の場合、国土地理院の発行する航空写真のほか1995年頃の調査開始時期に日本の

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