Vol.2 No.4 2009
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研究論文:最先端の地質研究と国土の基礎情報(斎藤)−324−Synthesiology Vol.2 No.4(2009)ための基礎情報としてなどの新たな利用も考えられるようになってきた。これらの地質図の活用の効果は、大きく見てプラス増大効果(資源など)とマイナス削減効果(災害や土木のための社会コストの軽減)に分けられる。しかし、地質図幅の作成の場合最初からこれらの具体的な利用を想定して作成するわけではない。「砥用」地域では、調査開始時に地質図幅の個別具体的な用途を想定して調査したわけではなく、その地域全体に関する正確な地質情報を包括的に提示することを目的として調査した。地質図幅が作成されると、直接ないしは別な目的別の地質図を介して、社会でその知識・情報が活用されることになる(図2)。産総研技術情報部門(当時)は地質図幅のアウトカムの特徴として、「地質調査総合センターから末広がりに波及していくのが特徴」としている[7]。4 地質図幅作成の方法論地質図幅を初めとする地質図に関する研究は、モデルを立て、実験を行って検証を行っていく演繹的な研究手法ではなく、その地域に露出する地層・岩石の観察から真理を見つけていく帰納法な手法を用いる。実際の地質調査では、観察した事象からその地域の地質モデルを頭の中で作りつつ、調査をしながら常にモデルを更新していく作業を行う。このため野外でどのような精度の情報を収集できるかは、調査を行う研究者の能力に依存する部分がある。野外での丁寧な観察は、新たな発見を生み研究成果に直結することが多々あるので、地質図作成の上でもっとも重要なプロセスである。また調査方法の進歩により調査し直すと過去の地質図は大きく変わることがある。精度が上がる理由として、新たな露頭(岩石・地層の露出地)が見つかる場合のほか、地層・岩石の観察や理解の方法が向上して分布精度が上がる場合がある。例えば、何かを測定するときに測定技術が高度化してノイズが減り、正確に測定できるようになるのと同じである。このことは過去の学問レベルが進んでいないときの地質図と現在の地質図を比較してみれば明白である(図3)。このため、5万分の1地質図幅「砥用」の作成においては、地質図幅がこの地域の最先端の地質学的知見に基づく地層・岩石判別の基準となり、かつ研究目標に示した学問的進展を得るために以下の3点の研究方法に留意した。1)各作成担当者が最先端の地質学的知見に基づく地質情報を収集し、担当部分の地質図を完成した。著者が担当した付加体の地層・岩石を例に取れば、付加体では一般に地層間の境界が緩く傾く(形成当初は水平に近い)断層であることが多く、より上にある地層(上盤側)の方が、付加した年代が古いことが知られている(図4)。ただ付加体の認定には構造的に積み重なっている証拠や肉眼で認識できる化石が乏しいことから、微化石(プランクトンの化石)による地層の年代決定による証明を行った。また蛇紋岩とともに様々な岩石が低角な断層で付加体の上を覆っている地質構造が予想されたため、付加体の構造的上位に載る地層・岩石の同定とそれらの間や付加体との相互関係について野外で注意深く観察し、確実にルートマップを作ABC1 km図3 地質図の変遷。5万分の1地質図幅「横山」の例[文献8を改変]A: 1960年代に地質調査を行って作られた地質図[9]。付加体の概念は導入されていない。B: 1990年代の土地分類基本調査(表層地質図)[10]。十分な調査日数をかけずに作成したもの。C: 2000年に発行された5万分の1地質図幅「横山」[11]
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