Vol.2 No.4 2009
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研究論文:実時間全焦点顕微鏡の開発・製品化(大場)−266−Synthesiology Vol.2 No.4(2009)そこで、ここで求められる仕様としては微細環境下での作業を効率化するために、1)被写界深度を理想的には無限大に広げた実体画像の動的観測(30フレーム毎秒)2)対象物の三次元形状の実時間計測(30フレーム毎秒)の二つの項目を同時に満たすシステムを開発することとし、理論的な検討と処理アルゴリズムなどの検討を行った。この時のアプリケーションとしては、漠然とデジカメや眼鏡に搭載されると面白いのではないか、と考えていた程度で、特定の装置のイメージはなかった。上記の仕様1)と2)も最初から仕様として挙がっていたものではなく、後で詳しく述べるが、画像処理技術を用いて1)の画像を得る方法についての獲得する論文などを調べていくうちに、処理をする過程で物体の三次元位置情報を用いていないことに気付き、この情報を用いないのはもったいないという考えに至った。(b)第1次FS期アイデアを実際のハードウエアシステムとするためには、システム的な構成として、高速可変焦点機構と、データを取得、通信、処理を実時間で行うための情報処理・通信技術が必要となる。一つ目の高速可変焦点機構については、30フレーム毎秒での動的観測のためには、30 Hzでの応答速度が必要となるが、既製品ではこれを1桁下回ったものしかなかった。しかし、当時株式会社デンソーがマイクロマシンプロジェクトで開発していた可変焦点レンズに、マイクロマシン展で出会うことで解決された。情報処理・通信については、1枚の画像構成に必要な画像枚数をN枚とすると(N×30フレーム毎秒×画像デジタルサイズ)が必要とされる。当時、オランダのビジョンチップMAPPシリーズを輸入していたデルフトハイテック株式会社と、その開発を手掛けていた川鉄テクノリサーチ株式会社と出会うことで両方の技術課題を解決した試作1号機を開発した。(c)第2次FS期しかしながら速度的には0.5フレーム毎秒程度にとどまり、当初の目標である30フレーム毎秒を満足することができず、さらなる高速化を目指してビジョンチップを開発してくれる企業を探すため、多くの企業への直談判に明け暮れる時期が1年余あった。これが一つ目の難関である。「超高速なビジョンチップを開発し、実装することでこの問題は解決できるはずである」と論文には書き、逃げるのが通常の研究であったのかもしれないが、最後までやり遂げてみたいという信念から、この一つ目の難関に船出した。しかしながら、実際にはこのような話を多くの企業に持ちかけても、ビジネス的なメリットが見えないこと、開発には数億円を要するなどから、断られ続けた。この難関を抜けるきっかけとなったのは、フォトロン株式会社を訪ねたことである。同社は高速度カメラメーカーとして、秒速10,000枚以上の画像を高速撮像し、メモリ転送する技術を有しており、ビジョンチップで開発しなくても、同社が持つ高速撮像素子とLVDS用語1(Low Voltage Differential Signaling)インターフェース、さらにはFPGA用語2(Field Programmable Gate Array)処理を使えば実現できるだろう、との心強い助言により試作2号機が1カ月程度で試作された。(d)第3次FS期同時に、フォトロン株式会社と、将来のビジネス化を考え始めた時期でもある。多くの展示会などで展示を行うと、全焦点画像が最も求められているのは顕微鏡応用であることが分かったことから、この時期から顕微鏡応用に特化した開発を行い始めた。当初、株式会社デンソーの可変焦点レンズは手作りで作られており、顕微鏡の高精細な位置決めには適していないと同時に量産化が困難であることから、顕微鏡の焦点距離を電動で動かすドイツのPI社のピエゾアクチュエータを探し出し、その制御部分をいじることで希望の精度を得た。この高速に機械的な動きを高精度に実現することが二つ目の難関となり、これを克服した顕微鏡システムを実現したのが第3次FS期である。当初、高速な情報処理だけに頭が行き、高速な機械的な動きは何とかなると高をくくっていたが、実際に最後まで悩まされ続けたのは、どうやって高信頼に高速な機械的な動きを実現するかであった。(e)製品段階期顕微鏡システムで、幾つかの実証を繰り返していくことで、その顕微鏡応用も工業応用と生物応用に分けながらさらにビジネス化を考えたが、顕微鏡システムは光学メーカーが研究者などを対象に訪問販売し、メンテナンスを行うという特殊な販売ルートであり、門外漢のフォトロン株式会社が入るためには従来の光学メーカーにOEM供給をしながら、ユーザーへの販売を行う販路の確立が重要なカギとなった。これが最後の難関となり、この販路の確立に1年余の歳月を要したが、無事2003年には製品として世の中に出る運びとなった。3 アイデア段階期前章で紹介したアイデアは、「どこでもピントの合った画像を作りたい」という単純な科学的な興味から発したものである。当初、想定していたアプリケーションとしては、デジカメや眼鏡などを漠然と考えていたが、それを実現するために、焦点距離の異なる幾つかの画像をパソコンによるオフライン処理を行うことで、その有効性を確認することか
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