Vol.2 No.4 2009
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研究論文:バイオ燃料を木材からナノテクで生産する(遠藤)−319−Synthesiology Vol.2 No.4(2009)技術を調査した結果、実用化できる前処理技術の開発には、対象としている木材についての木材化学やセルロース化学からの視点が重要であることが分かった。さらに高分子化学や製紙など他分野の知見や技術を組み合わせることにより、新しいコンセプトに基づいた前処理技術の構築を進めることができた。しかし、前処理により得られるセルロースナノファイバーについては、その特性や酵素の反応機構など未解明の部分が多く、先端的分析技術も必要としている。今後、バイオ技術、化学工学や熱工学、LCA評価、さらには社会科学の分野など多分野の技術や知見の融合が進み、実際的なバイオ燃料技術が確立されることが期待される。複合処理による効率的かつ効果的前処理方法の構築(湿式カッターミル+オートクレーブ+ディスクミル)前処理の高度化湿式メカノケミカル処理により実際にフィブリル(nmオーダー)を分離したところ高結晶性であるが高糖化性であった仮説の実証実用化(副産物の高度利用も取り入れた経済的バイオエタノール製造プロセスの構築)製紙技術を応用した大規模プロセスの開発へ今後の展開ディスクミル(石臼)による効率的前処理実際的前処理方法フィブリルの分離が重要と推測(仮説)酵素糖化のための重要因子高分子化学のテクニック(固体NMRによる緩和時間測定)を応用他分野の技術の利用従来言われていた,微細化(μmオーダー)、セルロースの非晶化,リグニン除去は、重要因子ではない酵素糖化性の向上要因粉砕処理(メカノケミカル処理)をボールミルを用いて再実験古典的前処理の再検証従来技術は木材化学・セルロース化学的に不十分従来技術の調査木材からのバイオエタノール製造のための実際的前処理技術が必要不可欠参考文献A. E. Farrell, R. J. Plevin, B. T. Turner, A. D. Jones, M. O'Hare and D. M. Kammen: Ethanol can contribute to energy and environmental goals, Science, 311, 506-508 (2006).J. F. Saeman: Kinetics of wood saccharification-Hydrolysis of cellulose and decomposition of sugars in dilute acid at high temperature, Ind. Eng. Chem. Res., 37, 43-52 (1945).志水一充: セルロース系物質の酵素加水分解, 機能性セルロース,195-229,シーエムシー出版,東京 (1985).遠藤貴士: メカノケミカル反応による新規セルロース系複合材料, Cellu. Commun.(セルロース学会機関誌), 7 (2), 63-66 (2000).遠藤貴士,張 発饒,篠原由寛: 成形材料としてのセルロース, Cellu. Commun. (セルロース学会機関誌), 9 (2), 86-92 (2002).遠藤貴士, 吾郷万里子: メカノケミカル処理によるセルロースの構造変化, Cellu. Commun. (セルロース学会機関誌), 11 (2), 74-78 (2004).遠藤貴士,磯貝 明監修: 微粉砕化セルロースとプラスチックの複合化, セルロース利用技術の最先端,298-309,シーエムシー出版,東京 (2008).R. Tanaka, F. Yaku, E. Murai and T. Koshijima: Enzymatic degradation on finely divided wood meal of Pinus densiflora, Cell. Chem. Technol., 14, 859-868 (1980).[1][2][3][4][5][6][7][8]図11 前処理技術開発の流れ遠藤貴士, 北川良一, 細川純: 機械的粉砕によるセルロース繊維の微粒子形成挙動,高分子論文集, 56 (3), 166-173 (1999). 藤本真司, 井上宏之, 矢野伸一, 坂木 剛, 美濃輪智朗, 遠藤貴士, 澤山茂樹, 坂西欣也: リグノセルロース系バイオマスからの非硫酸バイオエタノール製造法の開発―メカノケミカル前処理・酵素糖化法―,石油学会誌,51 (5), 264-273 (2008).D. Ishii, D. Tatsumi and T. Matsumoto: Effect of solvent exchange on the solid structure and dissolution behavior of cellulose, Biomacromol., 4, 1238-1243 (2003). M. Ago, T. Endo and T. Hirotsu: Crystalline transformation of native cellulose from cellulose I to cellulose II polymorph by a ball-milling method with a specific amount of water, Celllose, 11 (2), 163-167 (2004).H. Ando, T. Sasaki, T. Kokusho, M. Shibata, Y. Uemura and Y. Hatate: Decomposition behavior of plant biomass in hot-compressed water, Ind. Eng. Chem. Res., 39 (10), 3688-3693 (2000).H. Inoue, S. Yano, T. Endo, T. Sakaki and S. Sawayama: Combining hot-compressed water and ball milling pretreatments to improve the efficiency of the enzymatic hydrolysis of eucalyptus, Biotechnol. Biofuels 1:2 1-9 (2008).矢野浩之,磯貝 明監修: セルロースナノファイバー複合材料, セルロース利用技術の最先端,258-269,シーエムシー出版,東京 (2008).[9][10][11][12][13][14][15]執筆者略歴遠藤 貴士(えんどう たかし)1992年広島大学大学院理学研究科化学専攻博士課程修了(博士(理学))。同年4月工業技術院四国工業技術試験所入所。以来現在まで、粉砕技術を用いたセルロースや木材の微細化や高付加価値化技術の開発を行う。2003年までは主に材料分野、2004年に現職場に異動後はバイオエタノール関連の研究開発に従事。2006年よりバイオマス研究センター研究チーム長、現在に至る。本論文は、入所以来研究してきたセルロースの粉砕に関する成果の一部をまとめたものである。査読者との議論 議論1 従来法(蒸煮法、爆砕法、水熱法)と比較した利点質問(水野 光一:産業技術総合研究所環境管理技術研究部門)酵素糖化に限定した場合、木材からエタノールへの転化プロセス全体の中で、今回開発した湿式カッターミル/オートクレーブ処理/湿式ディスクミルの組み合わせは他の従来法(蒸煮法、爆砕法、水熱法)と比較した図2が示されています。これについて、利点や長所がどの程度進展し、また欠点や課題をどの程度克服したことになるのかを定量的または定性的に示して下さい。回答(遠藤 貴士)我々が開発した複合処理の長所は、低環境負荷で樹種によらず糖化性の高い前処理物が得られることにあります。従来技術であるボールミル粉砕と比較して消費エネルギーは10から20分の1以下です。また、我々の方法による前処理物は少量の酵素でも糖化が進行するため、酵素コストも低減できます。原料には伐採直後の水分含有量の高い木材も利用することができ、薬品等を大量に使用することもないため、将来的には原料が採取できる現地(東南アジア等も想定されます)での商業的バイオエタノール製造も可能性が高いと思ってい
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