Vol.2 No.4 2009
58/92

研究論文:バイオ燃料を木材からナノテクで生産する(遠藤)−318−Synthesiology Vol.2 No.4(2009)な低コスト化は困難である。しかし、メカノケミカル処理ではバイオエタノール製造での他の工程のコストを大きく低減できる利点もある。メカノケミカル処理物は脱リグニンなどの化学的処理を行わなくても酵素糖化や発酵が高効率で進行する。また、原料への依存性も低く、広葉樹や針葉樹あるいは稲ワラ等の前処理として適応可能である。最も大きな利点は、バイオエタノール製造コスト中、場合により半分以上を占めるといわれるセルラーゼ等の酵素コストを低減できることにある。メカノケミカル処理物は比較的少量の酵素でも十分に糖化できる。図10に、異なる前処理による生成物について酵素添加量と糖化率の関係について示した[14]。メカノケミカル処理と比較して、200 ℃の高温水熱処理では酵素量が少ない場合に大きく糖化率が低下する。この現象は、高温水熱処理の場合に木材成分の変性などにより、阻害物質が生成したためと考えられる。酸処理も水熱処理と類似反応のため同様の結果になると考えられる。比較的低温(160 ℃)の処理では、メカノケミカル処理時間を短縮できる効果もあるうえ、少量の酵素でも糖化は進行する。7.2 従来技術との比較我々の開発した酵素糖化のための前処理プロセスの特徴を従来技術(図2下段の表)と比較すると次のようになる。処理物の糖化率は古典的メカノケミカル処理と同程度に高い。利点としては、薬品を用いた化学処理のような高度な反応制御が必要なく、また、処理に用いるのは水のみであるため、薬品回収も必要なく廃液処理も容易である。同一の処理量で比較すると消費電力は従来型のボールミル処理の10から20分の1以下である。オートクレーブ処理も高温高圧処理ではないため消費エネルギーも低く、装置も高耐圧にする必要もない。前述のように、原料バイオマス種への依存性も低い。また、我々が開発した前処理プロセスは湿式処理が基本であり、原料の乾燥等は必要なく、含水量の多い生原料でもそのまま用いることができる。濃硫酸糖化などでは、硫酸の希釈による発熱を防ぐために原料の乾燥が必要となる場合があり効率が悪い。以上のように我々の開発した前処理プロセスは、従来技術が持っていた種々の課題を克服できるとともに、それらの利点も損なうことなく応用展開している。新たに発生した課題としては、本研究開発で用いた湿式カッターミルやディスクミルが比較的精密な粉砕機であるため、そのまま大型化するのが容易ではないことが挙げられる。しかし、我々の前処理プロセスは、製紙における機械パルプ化技術と類似点も多いため、製紙技術を応用・発展させることによる大規模化・実用化は進めやすいと考えられる。8 まとめと今後の展開産総研では、我々が開発した前処理プロセスと、これまで研究開発を進めてきた糖化・発酵プロセスを組み入れたバイオエタノールの一貫製造ミニプラント(1回200 kgの多種多様なバイオマスが処理可能)を建設した。ここでは、各要素技術やプロセスの連続化における課題抽出、バイオマス種による課題、経済性評価等を実施している。現在、大規模プロセスによる商業化を目指して企業とともに研究開発を進めているが、そのプロセスでは製紙技術を取り入れている。バイオエタノール製造技術の実用化では、残渣や副産物の高付加価値化も重要である。木材を前処理して得られるミクロフィブリル化物は、ナノサイズの微細繊維であるためセルロースナノファイバーとも呼ばれている。同サイズの鋼鉄と比較すると5分の1の軽さで強度は5倍と言われている。現在、この特性を生かした軽量高強度材料の開発が進められている[15]。また、光学材料や化粧品への応用も研究されている。その他、濾過材や食品添加物としては以前より一部実用化もされている。また、我々の開発した前処理では、木材成分の大きな分子構造の変化などは起きない。そのため酵素糖化後のリグニン残渣は、製紙工程で排出される黒液(リグニン分解物)とは異なり、木材中と同様の構造や高い分子量を保持していると考えられる。そのため、このリグニン残渣は従来型の燃料としての利用以外に、黒液リグニンなどでは不可能であった高分子材料への転換や高付加価値素材としての活用も大いに期待できる。以上のことからセルロースナノファイバー製造を共通基盤プロセスとしてバイオエタノール(主)と高付加価値材料(副)の併産を行えば、極めて高い経済性を発揮させられると考えられる。図11に我々の前処理技術開発の流れをまとめた。従来図10 前処理の違いによる酵素添加量と糖化性の関係酵素添加量 (FPU/g基質重量)*FPU:ろ紙分解活性糖収率 (%)ボールミル粉砕(120分間)水熱処理(160 ℃, 30分間) →ボールミル粉砕(40分間)水熱処理(200 ℃, 30分間)00101003040405060607080802020

元のページ 

10秒後に元のページに移動します

※このページを正しく表示するにはFlashPlayer9以上が必要です