Vol.2 No.4 2009
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研究論文:バイオ燃料を木材からナノテクで生産する(遠藤)−316−Synthesiology Vol.2 No.4(2009)の結晶本体であるため、結晶性の保持はミクロフィブリルがあまり損傷を受けることなくほぐれたことを示している。この湿式メカノケミカル処理物(ミクロフィブリル化物)は高結晶性であるが糖化率は70 %以上あった。この結果は、酵素糖化性を向上させるためには、セルロースの結晶性を低下させることが重要なのではなく、ミクロフィブリルをお互いに分離することにより、酵素が反応できる表面積を増大することが重要ということを示している。また、この湿式処理物は固形分濃度が5 %程度にもかかわらず、比重が1.5のセルロースミクロフィブリルは、その周囲に水分子を保持して沈殿することなく分散している。そのためミクロフィブリルの周囲には酵素が自由に活動できる空間も形成されていることになる。湿式処理が不十分で糖化率が低い試料では、糖化試験後の主な残渣は大きな繊維組織であったことから、木材を十分にミクロフィブリル化すれば酵素糖化性を大きく向上できることが分かった。以上のように、ミクロフィブリルの分離が酵素糖化に効果的であるという固体NMRに基づく作業仮説を、湿式メカノケミカル処理によって実際に木材をミクロフィブリル化することにより証明することができた。この前処理では、セルロースの結晶性は重要ではない。前章4.1で、精製木材パルプは高結晶性にもかかわらず、酵素糖化性は高かったが、この場合、ヘミセルロースやリグニンを分解・除去する精製過程で、ミクロフィブリルはお互いに分離して、酵素が接近して反応できる面積が大きくなっていたものと考えられる。木材組織はミクロフィブリルの集合体であり、その集合力は水素結合などの弱い結合のみである。そのため、湿式メカノケミカル処理により水分子をクサビのように利用して、集合力の元であるミクロフィブリル間の水素結合を切断すれば、構成単位であるミクロフィブリルに容易にほぐすことができる。この方法は木材化学的な観点からも無理がない。6 実用化を目指したミクロフィブリル化技術6.1 連続・大量処理処方法の検討ミクロフィブリル化処理として基盤実験で用いたボールミルは少量の試料でも実験が可能であるが、バッチ処理であり大型化・低コスト化の点では実際的ではない。そこで、ボールミルのように湿式で原料にせん断力や圧力を印加できる処理方法を検討した結果、石臼と同様の粉砕機構を持つディスクミルを用いることにより連続・大量生産が可能と考えられた。ディスクミル(増幸産業(株)スーパーマスコロイダー)を用いて木粉スラリー(木粉濃度5 wt%)を繰り返し粉砕処理したところ、 ボールミルの場合と同様にミクロフィブリル化が進行し、生成物の酵素糖化性も大きく向上することが分かった。ディスクミル処理では上下のディスクを10μm程度まで接近させて行ったが、処理効率はボールミルの10~20倍以上あった。しかし、ディスクミルでは、ボールミルでは顕著でなかった樹種への依存性が現れ、針葉樹と比較して広葉樹ではミクロフィブリル化が十分に進行せず糖化性が向上しない場合があった。これはボールミルと比較してディスクミルでは、粉砕エネルギーが小さいためと考えられた。そこで、ディスクミル処理前に木材組織を脆弱化させる処理が必要と考えられた。6.2 木材組織を脆弱化させる複合処理木材の強度発現は、前述のようにその強固な積層構造にある。ミクロフィブリルは水素結合などの弱い結合で集合しているが、桶のような積層構造のためにミクロフィブリル単位への分離は容易ではない。そこで、最初に桶のタガに相当するような組織を破壊し、内部への水の浸透性を向上させ、さらにミクロフィブリル同士を接着しているヘミセルロースを取り除けば、木材組織は脆弱化して効果的にディスクミル処理が進行すると考えられた。タガに相当する組織の破壊方法については、ボールミルを用いて予備検討した。実験は原料木粉を一定時間乾式メカノケミカル処理した後、水を添加して湿式メカノケミカル処理を行い、生成物のミクロフィブリル化および糖化性を調べた。その結果、乾式メカノケミカル処理が15分以下の場合には特に大きな変化はみられなかったが、20分間以上乾式処理を行った後に得られた湿式処理物では糖化性が著しく向上した。乾式メカノケミカル処理後の生成物を電子顕微鏡観察した結果、20分間の乾式メカノケミカル処理により、原料木粉の大きな木材組織はほとんど破壊されることが分かった。タガ相当の組織の破壊方法としてボールミル処理は実際的ではないため、比較的粉砕エネルギーが大きく大量処理が可能な方法について検討した結果、湿式カッターミルが効果的であることが分かった。我々が採用した湿式カッターミル(増幸産業(株)ミクロマイスター)は、1万rpm以上の超高速で回転するローター刃と固定刃による強いせん断力で、水に分散させた原料を1 mm以下に瞬時に微細化できる。この場合、水は粉砕物を流動化させて滞留を防止し、効率的に微細化を進行させる。また、処理中に水が木材組織内に浸透することにより、後段のオートクレーブ処理やディスクミル処理にも効果的に作用する。次に、ヘミセルロースの接着剤効果を減少させる方法としては、オートクレーブを用いた水熱処理により行うこととした。水熱処理では、温度条件によりヘミセルロース成分を選択的に加水分解できる[13]。これら湿式カッターミル

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