Vol.2 No.4 2009
51/92

研究論文:バイオ燃料を木材からナノテクで生産する(遠藤)−311−Synthesiology Vol.2 No.4(2009)2.1 セルロースの本質木材の主要成分はセルロース、ヘミセルロースおよびリグニンである。セルロースとヘミセルロースは分子が糖で構成されているが、リグニンは複雑な芳香族系化合物である。木材中ではセルロースがもっとも割合が多く、40~50 %含まれている。セルロースはグルコースが鎖状に繋がった生体高分子であるが、木材におけるセルロースの本質は、セルロースミクロフィブリルと呼ばれるセルロース分子の集合体である。セルロース分子は生合成されると直ぐに、分子の板を積み重ねるように規則正しく自己集合して、幅3~5 nmのセルロースミクロフィブリルを形成する(図1右下)。このミクロフィブリルがセルロース結晶の本体であり、非常に安定であるため水や一般的な有機溶媒には溶解しない。しかし、セルロース分子の集合力は一般的には弱いとされている水素結合と分子間力のみである。デンプンに含まれるアミロースは、構成糖がグルコースであるにもかかわらず、セルロースとは異なった化学的・物理的性質をもっており、熱水にも溶解する。そのため、アミラーゼによる酵素糖化も迅速に進行してバイオエタノールも容易に製造することができる。2.2 木材組織はナノ構造体木材では、図1右上に示すようにナノサイズの「セルロースミクロフィブリル」がヘミセルロースやリグニンを接着剤のようにして集合してより大きな「木材繊維」を形成し、さらに水を運ぶ導管や仮導管を中心に層状に積層することにより「木材組織」(図1左上)が形成されている。木材の強靱さは、この層構造により発現している。そのイメージは樽や桶に例えられる。桶は円形に並べた縦方向の板の周囲を板とは90度異なった方向にタガが巻いてあることにより、丈夫な道具となっている。木材組織ではナノサイズのセルロースミクロフィブリルが桶の板やタガのように高度に積層したナノ構造体となっている。このような強靱な木材組織構造も酵素糖化のための前処理を困難なものにしている。3 従来技術の課題と新技術開発のシナリオ3.1 酸糖化と酵素糖化木材中のセルロース等の糖化方法は、酸糖化法と酵素糖化法に大別される。図2にそれぞれの利点と課題を示した。最も古くから行われているのは硫酸を用いた酸糖化法であり、現在も新しい技術を取り入れた大規模なバイオエタノール製造試験が行われている。硫酸糖化の最大の長所は安価な硫酸を触媒として短時間で反応が進行することである。しかし、設備は硫酸耐性にする必要があり、また、糖化液や廃液からの硫酸回収・除去も課題としてある。これらはエンジニアリング技術の進歩で解決可能であるが、最も問題となるのは、生成した糖が共存する硫酸により、さらにフルフラールなどに変化する過分解が原理的にも起こりやすいことである[2]。過分解が起こると、エタノール発酵ができる糖の収量が減るとともに、過分解物は比較的少量(数%)でも酵母等の発酵阻害を引き起こす。一方、酵素糖化では原理的に副反応が起きないため、最終製品であるエタノールの収率向上が期待できる。酵素反応は50 ℃程度の穏和な条件で進行し、また、大量の薬品を必要としないため環境負荷も低い。一般的に、セルロースの糖化に関連する酵素は総称してセルラーゼと呼ばれ、これまでに500種以上が見出されているが、種類によってセルロースの結晶性や構造により反応性が大きく影響を一次壁細胞間層二次壁S3層S2層S1層ミクロフィブリルの積層方向が異なるヘミセルロースやリグニンを接着剤のようにして集合0.5 nm2~60 μmセルロース分子20~500 μm木材組織木材繊維セルロースミクロフィブリルヘミセルロースリグニン~100 nm~10 μm~3~5 nm6本6本図1 セルロースミクロフィブリルおよび木材組織の模式図

元のページ 

10秒後に元のページに移動します

※このページを正しく表示するにはFlashPlayer9以上が必要です