Vol.2 No.4 2009
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シンセシオロジー 研究論文−310−Synthesiology Vol.2 No.4 pp.310-320(Nov. 2009)1 はじめに近年、地球温暖化対策やエネルギーセキュリティーの観点から自動車用燃料としてのバイオエタノールに大きな関心が集まっている。アメリカやブラジルでは、年間2,000万キロリットル以上が生産されている。しかし、これらの原料は食料系バイオマスであるトウモロコシやサトウキビであるため、バイオエタノールの大規模生産により、競合する関連食料品や飼料の高騰が問題となっている。そのため、非食料系バイオマス(セルロース系バイオマス)である木材、稲ワラ、牧草等を原料にできる技術の確立が重要となってきた。セルロース系バイオマスはトウモロコシなどのデンプン系バイオマスと比較して、原料の生産からバイオエタノールの使用までのトータルの環境評価(LCA: Life Cycle Assessment)でも炭酸ガス削減効果が高いといわれている[1]。一般的にバイオエタノールは原料から得られた糖を酵母等で発酵することにより製造する。そのため、最初に木材中のセルロース等をグルコースにまで加水分解(糖化)する必要がある。現在は酵素糖化法が注目されているが、そこでは木材やセルロースの酵素反応性を向上させるための前処理が重要となっている。粉砕処理は古くから酵素糖化のための前処理として高コストではあるが効果が高いことが知られている。そこで、新しい前処理技術を開発するにあたって、まず有効であることが判明している粉砕処理を再検証して、セルロース等の酵素糖化性が、どのような機構により向上するのかについて新しい分析手法も取り入れて明らかにした。次に、得られた知見に基づいて新技術の開発を進めた結果、新しいコンセプトに基づく効率的かつ経済的な前処理技術の構築を進めることができた。2 木材・セルロースを知る我々の開発した酵素糖化のための前処理技術は、木材やセルロースの構造的特徴を利用した方法である。そのためこの章では、本技術開発のプロセスで重要な視点となる木材やセルロースの組織構造についてその概要を述べる。遠藤 貴士現在、木質バイオマスを原料として、セルロース成分等を酵素加水分解して糖に変換した後、発酵してエタノールを製造する技術が注目されている。そのプロセスではセルロースの反応性を高める前処理が必要となる。粉砕処理は効果的な前処理技術の一つであるがコスト高が課題であった。近年我々は、経済的な粉砕前処理方法として湿式メカノケミカル処理技術を開発した。この技術ではセルロース成分をナノサイズの繊維にまでほぐしている。生成したナノ繊維は、セルロースの結晶性が保持され、さらにリグニンが残存していても、高い酵素反応性を示した。我々が開発した前処理技術は、木材やセルロースが持つナノ構造の特徴を活用した方法である。バイオ燃料を木材からナノテクで生産する− セルロースの構造特性を利用した酵素糖化前処理技術 −Takashi EndoBioethanol Production from woods with the aid of nanotechnology - Pretreatment for enzymatic saccharification using natural structure of cellulose -Bioethanol production from woody biomass by enzymatic hydrolysis of cellulosic components and fermentation has attracted much attention. In this process, pretreatment is important to improve enzymatic degradability of cellulose. A milling process is one of the most effective methods for pretreatment, but its high cost has been a problem. Recently we have developed the economically-feasible wet-mechanochemical process as milling pretreatment, which can unravel cellulosic components into nanoscale fibers. Thus-obtained nanofibrous product showed a high enzymatic accessibility, while keeping the cellulose crystalline structure and the lignin content. This process is based on the understanding of the nanoscopic structural characteristics of wood and cellulose.キーワード:バイオエタノール、酵素糖化、前処理、メカノケミカル処理、ナノファイバーKeywords:Bioethanol, enzymatic saccharification, pretreatment, mechanochemical treatment, nanofiber産業技術総合研究所 バイオマス研究センター 〒737-0197 呉市広末広2-2-2Biomass Technology Research Center, AIST 2-2-2 Suehiro, Hiro, Kure 737-0197, Japan Original manuscript received September 1, 2009, Revisions received October 13, 2009, Accepted October 14, 2009
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