Vol.2 No.4 2009
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研究論文:循環発展的なプロジェクト構造を生むバイオインフォマティクス戦略(諏訪ほか)−307−Synthesiology Vol.2 No.4(2009)処理して、結果を出すことは得意分野である。しかしながらその結果が真に意味をもつか否かは、実験的研究で確認しなくては検証できない。そして検証の結果からのフィードバックを受けることで、要素技術で設定したパラメータをより良い方向に修正することができる。一方、実験系研究者にとっては、予測結果を受けて、リスクやコストの低い、より良い実験系の設計に修正することができる。私たちのプロジェクトでは、実験研究者との様々な共同研究を通じて議論を重ね、この双方向からのフィードバックが何度も働き、解析・予測技術の改良作業が加速化されたのだと思う。私たちの研究ユニットとしては実験を行わないが、今後のあらゆる研究で、常に実験研究者と連携するのが必須であるぐらいの取り組みが必要だと感じている。3)インキュベーションの場生命情報科学研究センター(現在のセンターの前身)の設立と前後して2000年にプロジェクトはスタートした。しかし必ずしも順調な始まりとはいえなかった。当時としては、前例の無いことだったので、どこから手を付け進行するか、模索しながらの始まりだった。もちろん、プロジェクトの進行に関する見通しが全くなかったわけではない。細胞膜のタンパク質を長年研究してきた者として、“こうすればできる”というイメージは、当初からもっていたが、筆者一人では具体的に実現化する手段が掴めなかった。しかし、並列計算環境の専門家である秋山氏、数理モデルの専門家である浅井氏と共同することで、大規模並列計算環境や高度な数学的手法を応用した強力な解析ができるようになった。また、現在でも、様々な局面での周りの研究者との議論が参考になっている。このようなことは、様々なバックグラウンドを持つ研究者が1箇所に集まった生命情報工学研究センターでなければ実現できなかったことであり、この幸運に感謝している。6.2 研究目標への到達度本プロジェクト開始時の目的は、GPCR研究に関しバイオインフォマティクス技術により、実験上の大きなリスクを軽減し、予め実験結果を予測して実験の設計に資する情報を提示することであった。2000年当初に比べ、最近はKinaseなどのGPCRとは異なるタンパク質や、タンパク質複合体形成阻害剤等が創薬ターゲット中で占める割合が高まっている。しかしGPCRの重要性は未だ色褪せておらず、バイオ情報の増加に伴い、学術論文の本数はむしろ急増している。その中で私たちは目的を達成できたのだろうか?SEVENSでは、実験ですでに発現を確認しているGPCRだけではなく、生体内で潜在的に発現しうる遺伝子まで把握していることから、本当の意味での網羅的解析ができるという点で独自性をもっており、GPCRの総合的な理解や関連創薬に大きく貢献できると自負している。しかし実際に貢献できたか否かは、開発したツールがどれくらい利用され、フィードバックを受けたかが一つの指標になる。現在、国際学術誌、文科省や経産省の統合DB整備事業等のポータルサイトにもリンクされ、国内、国外(アメリカ、ドイツ、フランス、ブラジル、スペイン、イタリア、台湾等)の企業や、政府機関等から月平均1,000件程度の非冗長なアクセス数がある。また、創薬関連の代表的WEB DBの1つとして、国際書籍[16][17]にもレビューされている。一方GRIFFINはGタンパク質結合予測のWEBツールとしてトップクラスを競っているところであり、これも国際書籍[18]にレビューされている。4章で示したように、これまで多くの産学官連携の共同研究が、循環的な発展をしながら展開し、重要な成果を得てきた。最初の段階では、想像もできなかったが、振り返ってみると実に効率よく研究が展開していったことに驚いている。プロジェクト開始当初では、企業との共同研究が主だったが、ここ3年ほどでアカデミックサイドとの共同研究が多くなった。これは、SEVENSのユーザーの裾野が広がってきたことを示している。最近では、大変うれしいことに、学会の懇親会等で、初めてお会いする製薬企業、大学等の実験系研究者からSEVENSやGRIFFINを利用しており、新規遺伝子の解析に役に立ったとの話を聞くこともある。以上を鑑みると、当初の目標はある程度達成され、自己評価としては満足のいくものと考える。SEVENSプロジェクトは今後も発展していく。これまで長い時間をかけて蓄積した機能データを基に、実験研究者と本格的にタイアップして、GPCRが関与する高次な生命現象の解明につながる成果を出していきたいと考えている。謝辞このプロジェクトは、多くの方たちとの共同研究である。秋山泰氏(東工大、前生命情報科学研究センター長)、浅井潔氏(東大/生命情報工学研究センター長)、有田正規氏(東大)、油谷浩幸教授(東大)、佐藤智之氏(みずほ情報総研)、大河内郁夫氏(みずほ情報総研)には、GPCR遺伝子同定技術導入に関してご助力をいただいた。広川貴次氏(生命情報工学研究センター 研究チーム長)、矢葺幸光氏(情報数理研究所)にはGRIFFIN開発に関してご助力をいただいた。藤渕航氏(生命情報工学研究センター 研究チーム長)、西澤達也氏(情報数理研究所)、奈良先端科学技術大学院大学の多くの学生には、GPCRの比較ゲノム解析に関してご助力をいただいた。以上の皆様に心から感謝いたします。
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