Vol.2 No.4 2009
38/92

研究論文:騒音計測の信頼性をいかに確保するか(堀内)−298−Synthesiology Vol.2 No.4(2009)致しているといえますが、今後は偏差の原因を追究していくことも、さらなる信頼性向上のためには必要と考えます。我が国が今後、音響計測の信頼性の点で世界から頭一つ抜け出すためには、産総研が新しい標準の開発などによって技術的に先導していくことが必要です。本文で述べたように、我々の直近の課題は音響標準の校正周波数範囲の拡大です。空中超音波による健康被害や低周波公害のない社会の実現のための基盤を整備しています。同時に、測定結果の信頼性を様々な角度から追究し続け、研究成果として発信していくことも不可欠です。同一の校正原理に基づいて国際比較を行い、同等性を検証することだけではなく、異なる校正方法による測定結果の整合性を検証していくことも必要です。例えば、一次校正されたⅠ形標準マイクロホンを用いた測定結果とⅡ形による結果の整合性の確認は、現状では十分になされているとはいえません。音響測定器の校正事業者や製造メーカー、エンドユーザーに対しては、自らの測定結果の信頼性確保のために、国家標準へのトレーサビリティの確保だけでなく、測定方法に内在する様々な不確かさ要因の評価が不可欠であることを訴え続けることが必要です。反射音の影響はまさにその良い例といえます。議論4 産総研の今後の国際的・社会的役割質問(工藤 勝久:産業技術総合研究所評価部)「音の標準」を必要とする多数の産業、学術・技術分野があり、その裾野には非常に多数のユーザーが存在しています。今後の技術的トレンドに関して、産総研が今後果たすべき「音の標準」に関する国際的・社会的な役割について、その展望をお聞かせください。回答(堀内 竜三)本文でも述べたように、最近では、家電製品や情報機器から発生する騒音の測定が重要視されるようになりました。これらの機器が出す騒音を評価する場合、従来の音圧レベルや騒音レベルに代わって、音響パワーレベルが測定されるようになってきています。騒音レベルは、測定点での騒音の状態を直感的に理解しやすいのですが、音響パワーレベルを求めておけば、騒音源が放射する音響出力全体を評価することができます。音響パワーレベル測定の信頼性を確保するには、基準となる「基準音源」の精密校正技術の開発が不可欠です。基準音源とは、広帯域騒音を安定に発生できる、音響パワーレベル測定専用の音源です。校正済みの基準音源があれば、被校正機器との比較校正によって音響パワーレベルを求めることできます。今後産総研が基準音源の精密校正技術を開発し、音響パワーの標準として確立することで、ユーザーは測定結果の信頼性を確保できるようになります。議論5 最も長い時間がかかった課題質問(工藤 勝久)これまでの標準開発から供給に至るプロセスで、最も時間を費やした課題とその解決に向けて行った取組みについてお聞かせください。回答(堀内 竜三)音響標準の開発において最も時間を費やした技術課題は、標準マイクロホンの音圧感度の不安定性の原因究明です。標準マイクロホンの一次校正システムを高度化し、校正システムの電気的特性に起因する不確かさを現時点における限界まで低減させたことで、マイクロホンそのものの感度が不安定なのではないかという疑いをもつようになり、その原因を追究しました。別の言い方をすると、システムの高度化によってはじめて、マイクロホン感度の不安定性を観察できるようになったということです。不安定性の原因になり得ると考えた項目は、本文で述べた物理的な歪みの影響のほか、感度の環境条件(温度、静圧)依存性、マイクロホンの絶縁不良、マイクロホンとして動作させるために必要な直流電圧の印加、マイクロホンをプリアンプに接続したときにマイクロホンに加わる物理的な力です。しかし物理的な歪みの影響以外の項目は、いずれも測定結果を説明できるものではありませんでした。この不安定現象は、測定を数回くり返せば必ず出現するというものではなく、通常は安定であったものが、あるときに値が大きく変化するという特徴をもっています。このため、ある測定条件で一連のデータを取得し、かつ測定条件を試行錯誤的に変えながら測定を完了するまでに膨大な時間がかかり、結論に到達するまでに3~4年の期間を要しました。

元のページ 

10秒後に元のページに移動します

※このページを正しく表示するにはFlashPlayer9以上が必要です