Vol.2 No.4 2009
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研究論文:騒音計測の信頼性をいかに確保するか(堀内)−297−Synthesiology Vol.2 No.4(2009)執筆者略歴堀内 竜三(ほりうち りゅうぞう)1989年、早稲田大学大学院理工学研究科電気工学専攻修了。1990年工業技術院電子技術総合研究所入所。2001年より産業技術総合研究所計測標準研究部門音響振動科音響超音波標準研究室主任研究員。研究分野は音響標準の開発をはじめとする音響精密計測。2000年~2001年、NPL(英国物理学研究所)において低周波音響標準の開発に従事。工学博士。査読者との議論議論1 カプラ法以外の一次校正法質問(小野 晃:産業技術総合研究所)一次校正法に関して本論文ではカプラ法以外は採用しなかったわけですが、他の一次校正法としてはどのような原理のものがありますか。また、国際比較に参加した他の国の標準研究所では、どのような一次校正方法を採用しているのでしょうか。カプラ法以外のものを採用している国があれば、どのような校正法をどのような考え方で採用しているかご教示願います。回答(堀内 竜三)音響測定器の二次校正において基準となる標準マイクロホンの自由音場感度は、通常は直接一次校正せず、カプラ校正法で一次校正した音圧感度に補正項を乗じて求めます(「音場」の読み方としては、「おんじょう」、「おんば」のいずれも使われています)。これは音圧感度の方が自由音場感度よりも容易に高精度な校正を行えるためです。自由音場感度を一次校正する場合には、カプラの代わりに無響室内で2個の標準マイクロホンを向かい合わせに配置し、カプラ校正法と同様の測定を行います。しかしこの方法では、低周波域でS/Nが極端に悪くなるため、長時間測定に加えて、より厳密なクロストークの低減対策が不可欠です。また無響室内での測定であるため反射音の影響の低減も必須です。こうした理由により、ルーチン的な校正サービスに適した方法とはいえず、通常は用いられません。他国の標準研究ビリティ, 騒音制御, 30 (5), 381-383 (2006).瀬田勝男: 計量標準国際相互承認へ向けての活動, AIST Today, 1 (6), 26 (2001).ISO/IEC 17025 (JIS Q 17025), 試験所及び校正機関の能力に関する一般要求事項 (2005).R. Barham: Report on key comparison CCAUV.A-K1, Metrologia, 40-09002 (2003).V. C. Henriquez and K. Rasmussen: Final report on the key comparison CCAUV.A-K3, Metrologia, 43-09001 (2006).R. Horiuchi, H. Takahashi, T. Fujimori and S. Sato: Final report on key comparison APMP.AUV.A-K1, Metrologia, 44-09001 (2007).JCT 21500-05, 計量法校正事業者認定制度 技術的要求事項適用指針 音圧レベル (2009).高橋 弘宜, 藤森 威, 堀内 竜三: 空中超音波帯域における音響標準の開発, 日本音響学会誌,65 (1), 34-39 (2009).堀内 竜三, 藤森 威, 佐藤 宗純: 超低周波領域における音響標準の開発の現状, 日本音響学会誌,62 (4), 338-344 (2006).IEC TS 61094-7, Measurement microphones Part7: Values for the difference between free-field and pressure sensitivity levels of laboratory standard microphones (2006).[27][28][29][30][31][32][33][34][35]所においても、カプラ校正法が標準マイクロホンの一次校正に用いられています。なお低周波域に限定すれば、レーザーピストンホンという、音圧感度の一次校正法もあります。この方法では、加振器に取り付けたピストンを音源として使用し、カプラ内に音圧を発生させます。ピストンの振動変位を光学的に測定して音圧に換算するとともに、音圧に曝した標準マイクロホンの出力電圧を測定し、音圧感度を求めます。産総研は、超低周波域での一次校正装置として、レーザーピストンホンの開発を行っています。議論2 外国の標準研究所における反射音評価方法質問(小野 晃)二次校正における反射音の影響評価は優れた成果と思います。外国の標準研究所でも同様の方法をすでに採用しているのでしょうか。あるいは日本と異なる評価方法をとっているのでしょうか。回答(堀内 竜三)音響測定器の二次校正における反射音の低減・評価方法として、他国の標準研究所では別の方法も用いられています。反射音の時間遅れに合わせて動作時刻を設定した狭帯域フィルタを用いて反射音を除去する方法(TDS ; Time Delay Spectrometry)や、パルス応答を高速に求めるため特殊なランダム信号を用いる方法(MLS ; Maximum Length Sequence法)があります。いずれの方法も、時間軸上で直接音と反射音を分離し、直接音のみを取り出すという点では共通ですが、国際的に統一された方法はありません。現在審議中の計測用マイクロホンの二次校正法の国際規格では、産総研が開発したFFTアナライザによる仮想パルス法をはじめ、複数の方法が取り入れられる予定です。議論3 音響標準の世界水準と今後の日本の方向質問(小野 晃)国際比較の結果の図を見ますと、国際度量衡委員会が主催した主要国の測定値と、アジア太平洋地域の国の測定値とで、ばらつきや不確かさにほとんど違いがないように見えます。むしろ、主要国には平均値からの偏差が大きいところがある一方、アジア太平洋地域の国々は平均値からの偏差が小さいとも見えます。これは音響の国家標準の技術が成熟して途上国にも十分に行き渡り、国の間の技術の差が小さくなったと見るべきなのでしょうか。ご意見をいただければ幸いです。また日本が今後、音響計測の信頼性において世界で抜け出すためには、どのようなことに努めたらよいと考えますか。トレーサビリティの中流域(校正事業者)から下流域(計測現場)にかけて、あるいは音響計測器の製造事業者に対してサジェスションはあるでしょうか。回答(堀内 竜三)ご指摘のように、国際比較の結果である図8は、音響標準の開発を先導してきた主要国の標準研究所と、後発のアジア諸国の研究所との差が小さいことを表しています。この背景には、音響標準に特殊な事情が影響しています。多くの研究所が所有する標準マイクロホンの一次校正装置は、ある特定の音響機器メーカーが製造したものです。校正手順を習熟すれば再現性の良い校正値が得られますし、不確かさの評価に必要な技術情報の収集もそれほど難しくはありません。このため経験の比較的浅い研究所でも、一次校正装置を自力で開発した研究所と同等の音響標準を比較的容易に実現できます。同じメーカーの一次校正装置を用いていれば、国際比較における校正結果のばらつきが小さいのは自然な結果です。これに対して一次校正装置を開発できるだけの技術力をもった研究所は世界に5機関ほどしかなく、アジア地域では我が国(産総研)だけです。これらの研究所が開発した一次校正装置の構成は、当該音響機器メーカー製のものとは異なりますので、国際比較への参加が唯一の同等性の検証方法です。異なる一次校正装置による校正結果は、現状ではよく一
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