Vol.2 No.4 2009
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研究論文:騒音計測の信頼性をいかに確保するか(堀内)−295−Synthesiology Vol.2 No.4(2009)校正事業者の登録審査においても、産総研は技術的立場から審査を支援しており、2009年8月末現在、6事業者が計量標準供給制度の登録事業者として認定され、測定能力が担保されている。7 研究成果本研究では、安全・安心な社会を支える騒音計測技術の信頼性確保に必要な技術開発を行った。まず国家標準である標準マイクロホン音圧感度の一次校正システムを高度化し、音響標準の新たな供給サービスとして開始した。校正システムの電気的特性に起因する不確かさを現時点における限界まで低減させたことにより、マイクロホン感度の不安定性が不確かさの大きな要因となること、ならびにマイクロホンの型式によって安定性に違いがあることを明らかにした。つぎに標準マイクロホンを基準としてユーザーの音響測定器を二次校正する際に問題となっていた、音場の不確かさの評価技術を確立した。デジタル信号処理技術の導入により、反射音の影響を低減させる方法を開発した。こうした技術開発に基づき、国内では計量法に基づく標準供給体制を整備し、トレービリティ体系を確立した。音響標準の供給、技術的要求事項適用指針の審議、技能試験参照値の提供、校正事業者の審査支援を通じて、校正事業者の測定能力を検証した。産総研自らも、審査を受けて認定を取得するとともに、国際的には複数の国際比較に参加し、主要研究所との間で国家標準の同等性を検証した。アジア地域内で最初に行われた基幹比較では幹事研究所を務めた。これらの成果は、音響測定器の性能の担保だけでなく、ユーザーが行う測定結果の信頼性向上にも大きく寄与している。反射音の評価技術の開発によって反射音の原因やその程度が明確になり、反射の影響の低減対策を立てやすくなったばかりでなく、その効果を定量的に評価できるようになった。その結果、測定者の技量によって測定結果の信頼性に差が出てくるという問題が解決され、経験の少ない者でも容易に信頼性の高いデータを得ることが可能になった。8 おわりに標準マイクロホンをトレーサビリティ体系の頂点とする、計量法に基づく音響標準の供給体制を新たに整備し、時代の要求に即した新たな校正サービスを開始した。今後の課題としては、音響標準の校正周波数範囲を可聴帯域外へ拡張することが残されている。我々の身の回りには、20 kHz以上の超高周波音を発生する機器が増えてきている。しかし超高周波域では音響標準が確立されていないため、音圧レベルの定量的な評価ができない状況にある。人間が強力な空中超音波に曝された場合の安全性の是非を議論する上で、音響標準の整備は不可欠である[33]。また20 Hz以下の超低周波域でも低周波音に関する苦情が増加してきている。低周波音の統一的な測定方法は策定されているものの、音響標準が供給されていないため測定結果の信頼性は確保されておらず、音響標準の整備はやはり不可欠である[34]。したがって、今後は周波数範囲の拡大をめざした音響標準や計測技術の研究開発を進めていく。 参照値からの偏差 (dB)SCL(香港)NPLI(インド)NML/SIRIM(マレーシア)NIMT(タイ)NIM(中国)CMS/ITRI(台湾)NMIA(オーストラリア)KRISS(韓国)NMIJ(日本)VNIFIRI(ロシア)PTB(ドイツ)NRC(カナダ)NIST(アメリカ)GUM(ポーランド)DPLA(デンマーク)CSIR(南アメリカ)CENAM(メキシコ)NPL(イギリス)0.080.060.040.020.000.10-0.06-0.10-0.04-0.02-0.08図8 国際比較の結果(周波数1 kHz)横軸は参加した国家計量標準研究所の略称名、縦軸は国際比較で決定された参照値(参加研究所の校正値の算術平均値)に対する各研究所の校正値の差を表しており、この差が各研究所の宣言する不確かさ(95 %信頼区間、バーで表示)内に入っていれば同等とみなす。
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