Vol.2 No.4 2009
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研究論文:騒音計測の信頼性をいかに確保するか(堀内)−292−Synthesiology Vol.2 No.4(2009)号処理技術を導入し、ノイズ除去法、アッテネータの校正法ならびにクロストークについて高度化を図った[18]。ノイズ除去法に関しては、従来の狭帯域フィルタによるアナログ信号処理ではフィルタの安定性が問題であったため、新たにFFTアナライザ用語4によるデジタル信号処理を採用した。FFTアナライザの内蔵信号源を用いた同期加算法により、主要周波数範囲での測定再現性を0.02 dBから0.007 dBに、測定時間も従来の約半分にまで改善できた。また信号レベルの調整に用いるアッテネータの出力電圧(0.1~0.8 mV程度)を小さな不確かさで絶対測定する[19]ことは難しいという問題があった。そのためアッテネータの減衰比をあらかじめ精密校正できれば、信号レベルの大きなアッテネータ入力電圧の測定だけで済むことに着目し、FFTアナライザを用いた精密校正法を開発した。その結果、減衰比の不確かさを従来の0.01 dBから0.001 dBにまで低減させた。さらに不確かさ要因の一つであるクロストーク(信号が本来の経路以外の経路を通って混入する現象)が極力小さくなるように測定回路を設計した。高周波回路並みの厳密な対策をとったことで、クロストークによる不確かさを従来の0.01 dBから0.001 dBにまで低減させた。3.2 音圧感度の不安定性しかし校正システムを高度化してもなお音圧感度にばらつきが見られたため、校正対象であるマイクロホン自体に不安定性の原因があるのではないかと考え、様々な要因について検討した。その結果、マイクロホンとカプラの接触面をグリースで密着させる際に、マイクロホンに物理的な歪みが生じるため音響特性の変化が起こり、音圧感度が不安定になることを感度変化の周波数特性に着目して理論的に解明した[20]。またこの不安定現象は、国産の特定の型式の標準マイクロホンに顕著に現れることがわかったため、この型式の採用を極力避けることとした[21]。現状では、マイクロホン感度の不安定性による不確かさはⅠ形標準マイクロホンでは0.012 dB、Ⅱ形では0.008 dBである(Ⅰ形とⅡ形の違いについては図1を参照)。3.3 音圧感度の不確かさ高度化の結果、改善可能な不確かさ要因については、その寄与が無視できる程度にまで低減できた。主要な不確かさ要因として残るものは、マイクロホン感度の不安定性とカプラの内容積である(Ⅰ形標準マイクロホン用のカプラ(内容積20 cm3)では0.008 dB、Ⅱ形用カプラ(同1 cm3)では0.015 dB)。このためⅠ形、Ⅱ形標準マイクロホンとも、主要周波数範囲における音圧感度の不確かさ(95 %信頼区間)は0.04 dBとなっているが、従来に比べて半分程度にまで低減された[22]。4 音場の評価4.1 反射音音響測定器の二次校正では、基準となる標準マイクロホンと音響測定器との比較校正を行う。これらの校正は通常無響室の中で行うが、無響室の内壁(天井や底面も含む)には音の反射を防ぐため多数の吸音くさびを取り付けてある。また測定器を無響室内に運び込むための作業用床面でも反射が起こるため、網床用語5構造を採用している[23]。産総研の大無響室(図5)では、吸音くさびや網床による反射音は直接音に対して1~2 %程度存在する。それ以外にも基準マイクロホン(自由音場感度用語6が既知の標準マイクロホン)や校正対象の音響測定器を保持するための冶具による反射音が加わる。反射音の存在による、音場の理想状態からのずれを理論的に評価することは非常に難しいため、不確かさの評価は実験的に行わざるを得ない。4.2 音響測定器の二次校正4章では以下、計測用マイクロホンの校正を対象として記述するが、騒音計についても同様に考えることができる。音響測定器の二次校正法には置換法と並置法がある[24]。どちらの方法も、スピーカーの前方に配置した基準マイクロホンと被校正マイクロホン(校正すべき計測用マイクロホン)の出力電圧比、すなわち感度比を測定し基準マイクロホンの感度を乗じて被校正マイクロホンの感度を求める点では同じである。違いはマイクロホンの設置方法である。置換法では、基準マイクロホンを被校正マイクロホンに置き換え、出力電圧を順次測定する。この間、どちらのマイクロホンにも等しい音圧が作用すると仮定するが、実際にはスピーカーの特性が発熱で変化し、発生音圧が時間的図5 産総研の大無響室無響室の内壁には、グラスウール製の吸音くさびを多数取り付けてある。網床の上には、見やすさのためにベニヤ板を載せて撮影した。
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