Vol.2 No.4 2009
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研究論文:騒音計測の信頼性をいかに確保するか(堀内)−291−Synthesiology Vol.2 No.4(2009)さの低減である。産総研が実現できる標準マイクロホン感度の校正不確かさは、これまでは0.1 dB程度が限界であった。しかしJISでは、騒音計の点検に用いるハイグレードの音響校正器[14](一定音圧を発生できる可搬型の校正用音源)の校正不確かさが0.1 dB以下と定められており、感度の不確かさが0.1 dBの標準マイクロホンでは音響校正器の性能を評価するための基準として使えないという問題があった。標準マイクロホン感度の校正装置を高度化することが不可欠になったため、デジタル信号処理技術の導入によるS/Nの改善などを行い、不確かさを0.04 dBにまで低減した。第二の要素技術は、音響測定器の校正に用いる音場の不完全性(反射音の影響)に起因する不確かさの評価方法の開発である。反射音の影響を可視化して不確かさを定量的に評価するとともに、デジタル信号処理技術を駆使して反射音を除去する方法を開発した。これらの研究成果を社会に還元するために必要になるのが、音響測定器のトレーサビリティ体系である。トレーサビリティ体系の構築によって、標準マイクロホンや音響測定器の校正技術を、エンドユーザーの測定結果の信頼性向上に結びつけることが可能になる。産総研がトレーサビリティ体系の頂点として音響標準を供給し、校正事業者はこれを基準にしてユーザーの音響測定器を校正するという体系を作り上げた。さらにトレーサビリティ体系の階層ごとに、各組織(産総研および各校正事業者)の測定能力の妥当性確認が必要になってくる。このため産総研は、各国の国家計量標準研究所との間、ならびに校正事業者との間で各々持ち回り試験を行った。なおかつ各組織は、自らが実施する校正の手順や不確かさの評価方法について第三者機関による審査を受けることにより、測定能力の妥当性を客観的に証明した。個々の要素技術を開発し、トレーサビリティ体系という形で統合したことにより、ユーザーが行う騒音測定結果の信頼性を国際的に確保するスキームを確立した。3 国家標準としてのマイクロホン3.1 音圧感度の一次校正国家標準としてのマイクロホン(標準マイクロホン)は、その音圧感度用語3が安定であること、ならびに音圧感度の絶対値を高精度に校正(一次校正)できる方法が確立されていること、の2点が要件である。標準マイクロホンの音圧感度の一次校正にはカプラ校正法[15]を用い、音波を小容積の空洞(音響カプラ)内に閉じ込めた状態で校正を行う(図4)。これ以外の適用可能な校正法については、可聴周波数範囲(20 Hz~20 kHz)全てをカバーできない[16]ことや、不確かさの点で劣る[14][17]ことが理由で採用しなかった。カプラ校正法による校正技術の改良のため、デジタル信音響系カプラ音源マイクロホン受音マイクロホンプリアンプメインアンプバンドパスフィルタ信号出力アッテネータ系アッテネータch Ach BFFTアナライザ図4 カプラ校正法による校正システムのブロック図カプラ校正法では、標準マイクロホンをまず2個用意し、一方は音源として、他方は受音用として用いる。音源側に入力電圧を加えた時に振動膜から発生する音波は、カプラ内の空洞を経て受音側の振動膜に到達し、出力電圧が発生する。音源として用いた時の感度が受音用として用いた時の感度に等しくなるという電気音響変換器の特性を利用すれば、音源側入力電圧と受音側出力電圧の比やカプラの内容積から、両マイクロホンの音圧感度の積が求められる。個々のマイクロホン感度を求めるには、標準マイクロホンをもう1個用意し、3通りの音源・受音マイクロホンの組合せについて同様に測定すれば、各々の感度を算出できる。カプラ校正法では、受音マイクロホンの開放出力電圧を精密に測定するために、受音マイクロホンの出力インピーダンスや後段のアンプのゲインの影響を取り除く必要がある。このため音響系、アッテネータ系という二つの信号伝達経路を使用し、各経路で得られる出力電圧の比をとることにより、これらの影響をキャンセルする。
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