Vol.2 No.4 2009
30/92

研究論文:騒音計測の信頼性をいかに確保するか(堀内)−290−Synthesiology Vol.2 No.4(2009)できない状況になった。また最近では、環境騒音の測定だけでなく、家電製品(冷蔵庫、洗濯機、掃除機など)や情報機器(コピー機、パソコン、プリンタなど)から発生する騒音の測定が重要視されるようになった。これらの機器が出す騒音の測定には、音響測定器として計測用マイクロホンが使用される[12][13]。国際規格やそれと同等のJISに適合した音響測定器が供給されることではじめて、家電・情報機器メーカーは自社製品について測定した音響特性データの信頼性を確保し、製品の品質を国際的に保証できるようになる。産業界が今後の技術開発ロードマップに描いている、環境にやさしく安全・安心で、付加価値の高い製品を開発するためには、音響測定器のトレーサビリティ体系の整備が必須の基盤技術となった。こうした社会的ニーズの変化により、従来の検定制度とは異なる音響標準の供給体系を整備することとした。ユーザーが信頼性の高い騒音計測を行うには、こうした測定器の性能確保はもちろんのこと、測定環境条件(温度、気圧、風)や、周囲からの反射音という測定現場に特有な要因の影響を評価することが不可欠である。しかし反射音の影響については、音場(音波が存在する空間)の不確かさ評価が未解決の技術的課題となっていた。反射音の影響は、音を反射する地面や建物と測定器との位置関係に依存する。この性質を利用して従来は、測定器の位置を変えて測定したデータを平均化する対策がとられていた。この方法では不確かさを減らすことはできるが、実際に不確かさがどの程度低減されたかを定量的に評価することはできず、データの信頼性は十分ではなかった。全く同じことが音響測定器の校正においても課題となっていた。音響測定器の校正は通常、反射音の影響が少ないように設計された無響室の中で行われるが、高性能な無響室であっても全く反射音のない空間を実現することは極めて難しく、反射音の存在が音響測定器の校正における大きな不確かさの要因となっていた。この問題への対応として騒音計のJIS [6]では、無響室の中で音源や騒音計の位置を変えて測定をくり返し、不確かさを減らすことが要求されている。しかしこの方法は騒音計の仕様が規格に適合するかを判定するための手順の一つに過ぎず、不確かさが適切に評価されていないことが依然問題として残っていた。産総研は、このような状況に鑑み反射音が存在する音場の不確かさを評価する技術を開発し、技術的課題の解決を図った。また音響測定器の校正に関しては、もう一つの技術的課題が残されていた。これまでに実現してきた音響標準ではその不確かさの値が大きく、そのままでは一部の音響測定器の規格適合性が評価できない状況にあったため、音響標準の高度化(高精度化)による不確かさの低減が課題であった。本論文では以降に、これらの課題を解決して騒音計測の信頼性を確保するために行った研究について述べる。2 要素技術と研究シナリオ騒音計測の信頼性確保という研究目標を達成するには、前章で挙げた二つの技術的課題を解決するための要素技術が必要である。第一の要素技術は、標準マイクロホン感度の校正不確か音響校正器騒音計計測用マイクロホン音響測定器音圧感度一次校正装置標準マイクロホン標準マイクロホン標準マイクロホン一般ユーザー校正事業者校正事業者産総研図2 標準マイクロホン標準マイクロホンも計測用マイクロホンの一つであるが、音響標準としての信頼性を確保する必要があるため、感度の安定性について一般の計測用マイクロホンに比べて厳しい条件が課されている。また後述するようにカプラという治具に取り付けて感度校正を行うので、振動膜がカプラに触れて損傷しないよう、振動膜の外周には土手のような構造(図では矢印で示した、金色の部分)を備えている。左がⅠ形標準マイクロホン、右がⅡ形標準マイクロホンである。図3 音響計測におけるトレーサビリティ体系図上位の校正事業者がもつ標準マイクロホンは、産総研が開発した一次校正装置によって校正される。下位の校正事業者がもつ標準マイクロホンは、上位の校正事業者の標準マイクロホンとの比較によって二次校正される。一般ユーザーの音響測定器は、校正事業者の標準マイクロホンとの比較によって二次校正される。

元のページ 

10秒後に元のページに移動します

※このページを正しく表示するにはFlashPlayer9以上が必要です