Vol.2 No.4 2009
29/92
研究論文:騒音計測の信頼性をいかに確保するか(堀内)−289−Synthesiology Vol.2 No.4(2009)音圧レベルや騒音レベルの計測には、図1に示す計測用マイクロホン[4]や騒音計(最近では、サウンドレベルメータと称することが推奨されているが、本論文では一般的に用いられてきた名称を用いる)[5][6]が音響測定器として用いられる。音圧のセンサである計測用マイクロホンを用いれば、その出力電圧から音圧を測定できる。あるいは音圧センサと演算の機能を合わせもった騒音計を用いれば、計測量である音圧レベルや騒音レベルを直接表示できる。騒音計を用いて計測を行う代表的なユーザーとしては、次のものが挙げられる。①騒音レベルの計量値を公的に証明書に記載できる環境計量証明事業者、あるいはその要員として計量管理を行う環境計量士、②各地域で環境騒音測定を行う地方自治体、③開発した製品の音響特性を計測する必要のあるメーカー、④音響計測を行う大学や研究機関。適正な計量の実施を確保するため、従来から我が国の計量法では、取引・証明行為に用いる重要な計量器を「特定計量器」として定め、特定計量器に求められる構造や測定精度に関する試験(検定という)の項目とその合格基準を定め、法的な規制を行ってきた。騒音計も特定計量器の一つに指定されており、検定が行われてきた。現在我が国では、約5万台の騒音計が検定に合格し、公的な騒音計測に用いられている。騒音計の検定において、騒音レベルの表示値の正しさを評価するには、騒音計のマイクロホンに加わる音圧を精密に計測する必要がある。このため、標準マイクロホンと呼ばれる、安定性に優れた特殊な計測用マイクロホンが別途必要である(図2)[7][8]。別の言い方をすれば、標準マイクロホンの音圧センサとしての感度(入力音圧に対する出力電圧の比)が音響計測におけるいわば「基準の物差し」、すなわち「音の国家標準」(音響標準)となる。検定で基準として用いる標準マイクロホンを「騒音基準器」という。産総研は、旧工業技術院時代(電気試験所や電子技術総合研究所)を含めるとほぼ半世紀にわたって騒音基準器の感度校正サービスを行ってきた[9][10]。検定に合格した騒音計のみが取引・証明行為への使用を許されるという、我が国の検定制度は今後も継続される。しかし一方で、近年国際的にしばしば使われるようになった不確かさの概念が検定には含まれておらず、騒音基準器としての標準マイクロホン感度の校正値には不確かさの値が明記されていない。また特定計量器としての騒音計の検定においても、騒音基準器による測定値との差が許容範囲内にあるかどうかだけで合否を判定している。現在、測定器の仕様や校正法を規定するISOやIECの国際規格やJISには不確かさの考えが導入されるようになってきた。科学的な見地から言えば、本来、測定には多かれ少なかれ不確かさがつきまとう。人々が測定の結果を相互に信頼できるためには、測定結果の不確かさを適切に表明することが必須である。さらには、世界貿易機構における貿易の技術的障壁に関する協定(WTO/TBT協定)が、1995年に我が国も含めて締結された。このようにして、測定器の国際規格への適合性が、どの国でも同じように保証される体制作りが必要になった。このために、各国で当該測定器のトレーサビリティ用語2が確保され、かつ各国の国家標準同士の技術的な同等性が検証されていることが不可欠となった。音響分野においても状況は同じであり、音響測定器の規格適合性判定において不確かさ評価が不可欠となったため[11] 、測定のトレーサビリティ体系(図3)を構築しないと、ユーザーが用いる音響測定器の規格適合性を保証図1 計測用マイクロホン(左)と騒音計(右)計測用マイクロホンは、振動膜(図では円形の上端面)に作用する音圧に比例した出力電圧を発生する音圧のセンサである。可聴周波数範囲(20 Hz~20 kHz)で用いるタイプとしてⅠ形とⅡ形があり、筐体の外径と使用できる周波数範囲が異なる。左側の大きい方がⅠ形計測用マイクロホンである。騒音計は、先端(図では左端)に取り付けられた計測用マイクロホンで測定された音圧値から、計測量である音圧レベルや騒音レベルを演算して表示する機器である。マイクロホン、増幅器、周波数重み付け回路、演算回路、表示機構から構成される。
元のページ