Vol.2 No.4 2009
23/92
研究論文:誰でも作れて携行できる長さの国家標準器(石川)−283−Synthesiology Vol.2 No.4(2009)も、発振波長の変動は光の周波数換算で±5 kHz(相対的には1×10−11)の偏差に収まるという優れた性能を有している。5.2 レーザ共振器の変調機構ヨウ素安定化ヘリウムネオンレーザでは、ヨウ素分子による飽和吸収信号を検出するために、発振波長に光の周波数換算で6±0.3 MHzの変調をかけている。この変調は、片方の平面鏡を光軸方向に正弦波で振動させることで実現する。共振器長が30 cmの場合、その振幅は(3.81±0.19)nmとなる。また、先に述べたように、3次微分による制御信号を得るために第3高調波検出を行っている。もし平面鏡の振動に第3高調波が含まれると、3次微分信号に1次微分信号成分が混入し、結果として発振波長がシフトする。したがって、この平面鏡の振動は、高調波歪の極めて少ない純粋な基本波であることが求められる。さらに、位相敏感検出の感度を一定に保つため、駆動正弦波信号と振動の位相関係は変化しないことが求められる。このように、波長変調用のアクチュエータには、極めて高レベルの振幅安定性・超低歪・位相安定性が要求される。従来型のレーザを含む多くのヨウ素安定化ヘリウムネオンレーザでは、変調用にも共振器長の制御用と同じ構造を持つリング状積層ピエゾアクチュエータを用いる。従来型レーザでは、1個のリング状積層ピエゾアクチュエータを、変調・制御の両目的に兼用した。積層構造のピエゾアクチュエータは、本来制御用(DC動作)であり、振動(AC動作)は想定されていない。特に問題となるのは、振動させたときの耐久性である。従来型レーザでは、変調のための振動が原因と考えられるピエゾ素子の接着面剥離が頻発した。ひとたび剥離が起こると修理不能で交換しなければならないが、当時使用していた米国製リング状積層ピエゾアクチュエータは、高価な上に供給が不安定であり(軍用に優先的に供給されていたため)、ヨウ素安定化ヘリウムネオンレーザを使用する上で大きな障害となっていた。5.2.1 単層ピエゾ素子を用いた変調機構剥離故障したリング状積層ピエゾアクチュエータは廃棄するしかない。あるとき、故障の状況を把握するために廃棄の前に分解を試みた。リング状積層ピエゾアクチュエータをアセトンに浸しておくと、剥離面以外の接着面も全て剥がれ容易に分解することができた。このリング状積層ピエゾアクチュエータは、両面に電極として金属が蒸着されたリング状のピエゾ素子を10枚重ねたものであることが判明した。アクチュエータのストロークは1000 Vの印加電圧に対して10μmであるので、素子1枚はその1/10、すなわち1μmである。この分解されたアクチュエータを前にして、素子1枚を用いた単層の変調用アクチュエータの開発を思いついた。単層であれば剥離故障はない。変調に必要な振幅は先に述べたようにおよそ4 nmであり、単層素子のこの変位に相当する印加電圧は4 Vと、通常のオペアンプを使用した回路で扱いやすい電圧となる。さらに剛性も大幅に増加するので動作の安定性向上が期待できる。図12は最初に試作した変調用アクチュエータの構造である。2枚の真鍮固定リングネジの間に、リング状ピエゾ素子、アルミニウム製の平面鏡保持具、O−リングをケース内で挟んで締め付けるという単純な構造で、電圧は平面鏡保持具と固定リングの間に印加する。しかしながら、この機構をヨウ素安定化ヘリウムネオンレーザに組み込み、波長安定化を試みたところ、勧告された不確かさの10倍を超える大幅な波長シフトが観測された。3次微分信号のベースラインが目視でも判別できるほど傾いており、1次微分信号の混入、すなわち変調機構における3次高調波歪の著しい発生を伴うことが判明した。この構造は、静的な動作においては柔らかいO−リングが変形し、期待どおりの動作をする。しかし、振動動作では作用・反作用により、ピエゾを支えている真鍮固定リングも振動する。真鍮固定リングはネジ山で本体と接触している。通常のネジ同士の接触点は部分的であり、小さい変位に対する剛性が低く、非線形性も強いものと考えられる。ネジが直接物体を支えるような構造が歪発生の原因であると推測した。5.2.2 変調機構の動的特性の改善変調機構の動的特性を改善し高調波歪を低減するためには、機械的接触は丁寧な仕上げの平面同士として、剛性が高く安定した接触を確保することが必須である。さらに振動する平面鏡を支える保持具は、できるだけ動かないような構造とすることも重要である。図13はこの2点を考慮1: 固定リング(2枚)2: O-リング3: ミラーホルダー4: リング状ピエゾ素子5: ケース123451図12 変調用アクチュエータ(改良前、高調波歪が大きい)
元のページ