Vol.2 No.4 2009
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研究論文:誰でも作れて携行できる長さの国家標準器(石川)−281−Synthesiology Vol.2 No.4(2009)要な条件が欠落しているといえる。筆者は以前に、発振波長λの平面鏡の傾き角に対する依存性を評価するために、レーザパワーIをほぼ一定に保ちながら平面鏡の角度を変えた測定を行った[3]。その結果、ヨウ素安定化ヘリウムネオンレーザの全ての動作パラメーターを国際度量衡委員会の勧告の範囲内に設定しても、発振波長λは共振器の調整(平面鏡の傾き)によっては勧告する不確かさ(周波数換算で10 kHz)上変動することを実験的に確認した。このようにヨウ素安定化ヘリウムネオンレーザの発振波長の安定化のためには、平面鏡の移動機構には極めて高い直進性が要求されることが分かった。共振器長の制御に使用したピエゾアクチュエータは、剛性が高く微小変位が可能という優れた特徴をもつが、上記のように直進性に問題があり従来型のヨウ素安定化ヘリウムネオンレーザの精度のボトルネックとなっていた。汎用化を進めるためには、直進性の優れた移動機構の開発が不可欠であることが分かり、新型のヨウ素安定化ヘリウムネオンレーザでは高剛性で微小変位に優れたピエゾアクチュエータと直進性に優れたガイド機構を組み合わせるという手法を採用した。一般に機械的な直進ガイド機構は、平行バネ機構、摺動機構、転がり機構の三つに分類できる。ピエゾアクチュエータと組み合わせる直進ガイド機構として実績が多いのは、平行バネ機構である。平行バネ機構は、可動範囲は限られるが、遊び・摩擦・バックラッシュが存在しないので特に精密な位置制御に適していると考えられる。しかしながら、高度な直進性を実現するためには平行バネの構造をある程度大きくしなければならないこと、また系の剛性を高めると重量も増大すること、さらに高価であるという問題がある。摺動機構は原理的に遊びがあるので、本用途には適用できない。開発に際して、ピエゾアクチュエータ用のガイドとしての実績はほとんどないが、安価で軽量な転がり機構の採用を試みた。5.1.1 ボールスプラインによる直進移動機構転がり機構は、有限移動距離のものと、無限移動距離のものが存在する。有限移動距離転がり機構は、図8aに示したように、対向する直線ガイドの間にボールやローラ等の回転体を挟んだものである。下のガイドを固定して上のガイドを移動させると、挟まれた回転体は上ガイドの半分だけ移動する。ガイドの移動量を確保するために、回転体はガイド全長の50~70 %の範囲に配置される。有限移動距離転がり機構には、移動に伴い支点(回転体の位置)も移動していくという問題がある。転がり機構の剛性や荷重にも依存するが、支点位置の移動は避けられない姿勢変化の原因となる。無限移動距離転がり機構は図8bに示したように、上のガイドの移動に伴い後部から排出された回転体を、前部に戻し上下のガイド間に挿入するという機構を有するものである。長い移動量を容易に実現できるのに加え、支点の移動が小さい(回転体の間隔以下となる)ので、姿勢変化の少ない優れた機構とされている。直進移動転がり機構として最初に試用したのは、円形中空軸構造をもつボールスプライン(THK株式会社:LF13)[4]である。ボールスプラインは無限移動距離転がり機構の一種で、高度な直進性が期待できることと、形状がリング状積層ピエゾアクチュエータに近いのでレーザ共振器へ組み込みやすいことから採用を決定した。採用したボールスプラインのスプライン軸直径は13 mm、中心には直径5 mmの穴があり、レーザ出力光はここを通る。図9はボールスプラインを組み込んだ平面鏡直進移動機構である。平面鏡はスプライン端部にセットされ、スプライン軸は制御アーム内のプリロードスプリングにより前方に引っ張り出された状態である。平面鏡の調整機構をレーザ本体にセットすると、本体内のリニアピエゾアクチュエータの先端がスプライン軸制御アームに接触し、スプライン軸は半分程度押し込まれた状態となる。リニアピエゾアクチュエータに制御電圧を印加し、その伸縮によりミラー位置の制御を行った。転がり機構は摺動機構と異なり、予圧をかけて遊びを取り除くことができる。試用したボールスプラインも本体・ボール・スプライン軸の隙間は−6~−2 μmに調整され、ガタはない。しかし、レーザの発振中にスプライン軸を横方向に押すとミラーの傾きが原因と考えられるレーザパワーの変動が観測された。ボールスプライン機構の回転モーメントにa.有限移動距離転がり機構b.無限移動距離転がり機構制御アームスプライン軸ピエゾ素子で押し込む図8 有限移動距離転がり機構(a)と無限移動距離転がり機構(b) 図9 ボールスプラインを組み込んだ平面鏡直進移動機構

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