Vol.2 No.4 2009
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研究論文:誰でも作れて携行できる長さの国家標準器(石川)−280−Synthesiology Vol.2 No.4(2009)て述べる。ヨウ素安定化ヘリウムネオンレーザでは、吸収線を探索・選択するためにピエゾアクチュエータへの印加電圧を滑らかに変動させる必要がある。従来はこの変動をポテンショメータを使って行っていたが、全行程にわたって十分な電圧分解能を有するポテンショメータの製品は存在しない。したがって、変動範囲は一部の狭い電圧範囲に限定せざるを得ず操作性が悪くなっていた。図7は、ポテンショメータを用いる代わりにDCギアモータと積分回路を用いて、極めて高い電圧分解能を実現した電圧調整回路である。DCギアモータは、本来、入力電圧に比例した回転数で回転するアクチュエータであるが、外力で回転させた場合には発電機として動作し角速度(2π×回転数)に比例した電圧を発生する。この発生電圧を積分回路に入力させると、その出力はギアモータの回転角に比例した電圧となる。回転角と積分回路出力電圧の比例定数は、積分回路の入力抵抗とコンデンサを選択することにより任意に設定できる。さらにギアモータは、ポテンショメータと異なり制限なく回転させることができるので、全行程にわたる電圧調整を、例えば100回以上の回転で行うような設定も可能である。しかし、このような汎用部品を用いて特殊機能を実現させることは、計画的・系統的に進めたわけではない。レーザの性能に直結する部分、安定した供給・維持の障害となる部分の開発が優先されることはいうまでもないが、実際にアイデアが浮かび問題が解決される順序は、必ずしも重要度とは一致しなかった。したがって、本開発を進めるに際して、当初計画的・系統的なシナリオというものは存在しなかった。一方、このような汎用化がいくつか成功するとボトルネックを正確に把握できるようになり、問題の重要度を認識して頭の片隅に置いておくことで、他の業務を遂行するかたわらでふと解決策が浮かんだときに改良・開発を進められるようになった。このような状況で、およそ10年で一通りの汎用化が完成した。上述の電圧調整回路の例は、操作性向上に関するものであるが、汎用品を利用した新機構により基本性能(不確かさ・安定度)の向上を実現することもできた。以下の章では、レーザの基本性能を決定する光共振器長の制御機構に関して述べる。5 光共振器長制御機構の汎用化レーザの共振器長制御機構は、ヨウ素安定化ヘリウムネオンレーザの基本性能を決定する最も重要な部分である。従来は超低膨張材料やピエゾアクチュエータといった特殊部品が多用されていた。共振器長制御機構は、波長を制御するための直進移動機構と、3次微分信号を得るための変調機構があるが、以下に両機構の汎用化について述べる。また、安定した共振器長制御を実現する上で重要な防振機構についても述べる。5.1 平面鏡の直進移動機構ヨウ素安定化ヘリウムネオンレーザの動作条件は、国際度量衡委員会(CIPM)による勧告としてすでにまとめられている[2]。表1に国際度量衡委員会が勧告したヨウ素安定化ヘリウムネオンレーザの動作条件を示す。この勧告で規定されている4つの動作条件のうち共振器機構に直接関係するのは、先に述べた変調の深さ(光の周波数換算で6±0.3 MHz)であるが、共振器内の一方向光強度(10±5 mW)は平面鏡角度の影響を受けるので、共振器機構の問題ともいえる。従来型のヨウ素安定化ヘリウムネオンレーザでは、共振器長をリング状の積層ピエゾアクチュエータで制御していた。ところがピエゾ素子は必ずしも均一な材質でできているわけではないので、一定の電圧を印加しても伸縮量が場所ごとに異なるという不均一性が生じ、これが原因となって平面鏡の傾き角がわずかに変化するという現象が起きた。平面鏡の傾き角が変わると、光共振器の損失が変化するのでレーザの出力も変化する。レーザ出力は、共振器内の一方向光強度とレーザミラー透過率の積で決まる。表1からその変動の許容範囲は、規定出力(共振機内一方向光強度10 mW)の±50 %と大きいため、ピエゾアクチュエータの傾き角の変動による出力変化は、通常はほとんどこの範囲に収まる。しかし、実際の実験から、発振波長の再現性と安定性に優れたヨウ素安定化ヘリウムネオンレーザを実現するためには、制御に伴う平面鏡の傾き角の変動を可能な限り小さくすることが極めて重要であることが分かってきた。この点で、国際度量衡委員会の勧告は発振波長に影響する重DCギアモーター出力電圧 :Vm = kθ'ハンドル-+出力電圧:Vo = kθ/ CR回転角:θ積分回路CR*ただし光周波数の共振器内光強度シフト係数は1.4 kHz/mW以下であること mW(10±5)・一方向共振器内光強度MHz(6±0.3)・周波数変調幅(P-P)℃(15±0.2)・ヨウ素セルコールドフィンガーの温度℃(25±5)・ヨウ素セルの壁面の温度 図7 DCギアモータと積分回路による広範囲の電圧微調整回路表1 国家標準としてのヨウ素安定化ヘリウムネオンレーザの動作条件(国際度量衡委員会の勧告)

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