Vol.2 No.4 2009
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研究論文:誰でも作れて携行できる長さの国家標準器(石川)−278−Synthesiology Vol.2 No.4(2009)化とは、標準器としての性能・操作性・経済性・維持管理の容易さに優れたレーザの実現を目標としつつ、同時にレーザについての詳細な技術情報をユーザーに開示するというものである。波長標準の本質は、ヨウ素分子の普遍的な量子力学的性質から安定なレーザ波長を実現する技術にある。汎用化によりもたらされるこのような技術を国際間で共有できるならば、それは国家間でそれぞれの国家標準が同等であることを認め合うための相互信頼を確立する基礎となる。2.3 国内トレーサビリティの中流域の高度化日本国内のトレーサビリティの中流域で波長標準の校正をビジネスとする事業者は現在何社か存在するが、その技術レベルは一部先進国以外の国立標準機関と類似している。したがって汎用化したヨウ素安定化ヘリウムネオンレーザを構成事業者の標準器として採用することは、前節で述べたように標準を技術として保有するということを意味する。ゲージブロックや分銅といった人工物の基準器は、校正を行って値付けすることによりトレーサビリティが確保できる。しかし、ヨウ素安定化ヘリウムネオンレーザは、ヨウ素分子の量子力学的性質から波長を取り出す標準器であり、器差(不確かさ)は波長を取り出す過程の技術に依存する。このような標準においては、波長の値付けに加え、波長を取り出す過程の技術の保有とその評価、いうなれば「技術のトレーサビリティ」が本質的に重要である。技術の汎用化は、校正事業者などのトレーサビリティの中流域においても、ハードウエアの所有から技術の保有への転換を推進し、その信頼性の向上を実現するものである。3 ヨウ素安定化ヘリウムネオンレーザの動作原理ここでヨウ素安定化ヘリウムネオンレーザの動作原理を紹介しておく。図2はヨウ素安定化ヘリウムネオンレーザの構造の概略図である。普通のヘリウムネオンレーザは、2枚の平面鏡(正確には僅かな凹面)で構成される光共振器の間にヘリウムとネオンの混合ガスが入ったレーザチューブが置かれる。一方ヨウ素安定化ヘリウムネオンレーザでは、高純度のヨウ素ガスを封入した「ヨウ素セル」が光共振器の中に挿入される。2枚の平面鏡の光学的間隔(光共振器長)Lと波長λの関係は式(1)で表すことができる。λ = 2L / N (1)ここでNは整数である。λはLに比例するが、ヘリウムネオンレーザチューブの光増幅効果が有効である波長範囲は極めて狭いので、発振波長λは限定されたある範囲に留まる。Lを有効波長範囲を超えて変化させると整数Nが一つずつ増加あるいは減少(モードホップ)し、λは光増幅効果の有効な一定の範囲内に留まる。今、モードホップが発生しない範囲でLを変化させると、レーザの出力Iは図3の変化(破線)を示す。Iはλがモードホップに近い両端では低下し、中央で最大となる。レーザチューブに加えヨウ素セルが光共振器内に存在すると、ヨウ素分子による光の吸収がIに影響し、出力曲線は図3(実線)のように変化する。レーザ共振器内には高強度(10 mW)の光の定在波が存在するので、ヨウ素分子による光の吸収が飽和する。吸収の飽和により吸収波長中心では吸収が弱まるので、 Iが僅かに増加し出力曲線上に小突起が出現する。この現象を利用すると、ヨウ素分子の運動によるドップラー効果の影響を受けない極めて分解能の高い分光(飽和吸収分光:saturated absorption spectroscopy)が実現できる。ヨウ素安定化ヘリウムネオンレーザは、出力曲線上に出現する飽和吸収による小突起をマーカーとし、その中心に発振波長を制御・安定化することにより高精度の波長基準を実現する。出力曲線のピーク位置を検出する方法としては、通常位相敏感検出による微分法が利用される。図4に位相敏感検出による微分の原理を示す。微分を実現するために、λに僅かな変調をかける。λの変調によりIも変動するが、その振幅と位相は出力曲線I(λ)の傾斜で決まる。図に示したように、出力信号と復調信号を掛け合わせて得られた信号から直流成分を取り出すとI(λ)の1次微分I’(λ)が得られる。この微分がゼロになるようにλを制御すれば平面鏡レーザチューブ(ヘリウムとネオンの混合気体が入った放電管)ヨウ素セル(ヨウ素分子の気体が入ったガラスセル)LIキャピラリー平面鏡固体ヨウ素ILモードホップモードホップレーザ出力(ヨウ素セル無)レーザ出力(ヨウ素セル有)飽和吸収分光信号図2 ヨウ素安定化ヘリウムネオンレーザの概略図図3 レーザ共振器長Lとレーザ出力Iの関係(1縦モード内)

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